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第225話 2つの“アイテムボックス”

「“封魔の鎧”」


 琴男は余裕ぶった態度で、ニヤリとそう微笑みました。

 ……聞いたことのない魔法ですね。


 右手をゆっくりと眼前に持ち上げれば、その動きに連なって漆黒のオーラの揺らぎが強まります。

 まるでそれは、自身の身体を延長するかのようでした。


 見たことのない魔法に知的好奇心が沸き起こります。

 ……ですが、その正体は何となく分かりますよ。

 

「お兄ちゃん、何その魔法?」

「まあ興味が湧くと思ったよ。そうだな、どうせだしゲームでもやるか」

「ゲーム?」


 面白そうなお話を振ってきましたね。

 琴ちゃんウェポンを構えながら、私は琴男の続く言葉を待ちます。


 すると、琴男は“封魔の鎧”を操作して、床に落ちた瓦礫へと纏わせました。

 手の延長となったそれは、まるで発泡スチロールでも触れるかのように軽々と瓦礫を持ち上げます。

 瓦礫から落ちる欠片が、地面に叩きつけられました。


 擦れた瓦礫が軋む音を奏でています。

 琴男はちらりと身体に纏う漆黒のオーラに視線を向けながら語り掛けてきます。


「お前なら大体、これが何の魔法をベースにしてるか分かるだろ?」

「“アイテムボックス”」

「ちっとはクイズとしての体裁を保たせろよ」

「だってお兄ちゃんが扱える魔法って限られてるじゃん」


 琴男はさもクイズでもやろうとしてきましたが、正直それに付き合う気はありません。

 だってですよ。琴男が使える魔法なんてだいたいわかります。


 “魔素放出”。

 “アイテムボックス”。

 “探知遮断”。

 “大気遮断”。


 ……の4種類だけですし。基本的に扱う魔法というのは。

 そして“異世界の呪い”に掛かるその時まで、新たに会得した魔法というのはありませんでした。


 それに誰とも関わる機会を持たず、ただひたすらダンジョン攻略してレベリングを行っていた琴男に、新しい魔法を覚える暇があるとは思えません。というよりも魔法を教えてくれる指導者もいないですから。


 元々徹底した基礎技術だけで、30年間ずっとダンジョン攻略してきた冒険者です。

 その戦闘スタンスを重要視することは、文字通り私が一番良く分かっています。



 ……私は、随分と変わってしまいましたから。

 徹底した基礎技術を全て取っ払い、独自の道を進むことを選びました。


 同一人物——今や兄妹……と言っても、進んだ道は全くの別物です。



 相対する琴男は瓦礫を見せつけながら、不敵な笑みを浮かべました。


「ただ受け身ってだけじゃあ、どうせ納得しないだろ?」

「当たり前じゃん。なんか偉そうでムカつく」


 上から「受け止めてやろう」って姿勢で来られるとイラってくるんですよ。

 まあ、私のことですから。

 ですが元同一人物である琴男には、当然お見通しなようです。


「だろ。だから、俺も攻撃を仕掛けるよ」

「ふぅん。どんな戦い方をするのか、正直気になってたんだよね。面白いもの見せてくれるんだよね?」

「当たり前だ……ろっ!」


 琴男はそこで言葉を切ったかと思うと、“封魔の鎧”で持ち上げていた瓦礫を私目掛けてぶん投げてきました。

 大気を貫く勢いで、轟音を立てながら私に襲い掛かってきます。


 そこには何の躊躇ちゅうちょも感じません。


「……少しは、妹に対して優しくしようと思わない……のっ!」


 私は無詠唱で“琴ちゃんブースト”を発動。白銀のオーラを纏わせながら、素早くサイドステップして瓦礫の弾丸を回避。私がいた空間を瓦礫が穿ちます。

 地面にたたきつけられた瓦礫は、激しく轟音を立てながら土煙を舞い上げました。


 その間にも私は再度地面を蹴り上げながら琴男に接敵します。


 琴ちゃんウェポンを鞘から引き抜き、剣モードへと移行。

 白銀のオーラを滑らせ、ロングソードの切っ先へと纏わせます。


 高濃度の魔素に呼応した属性石が、紫電を生み出しました。

 

「“琴ちゃんスラッシュ”!!」

「っと!」


 琴男は最小限の動きで“琴ちゃんスラッシュ”を回避。下半身で動くことを徹底している為か、重心は崩れません。

 

 ……私だって、体勢を崩せるとは思っていません。

 なので、さらに追い打ちを仕掛けます。


「たっ! やあっ!」

「っぶね……なっ」


 紫電纏うロングソードの連撃を、琴男は難なく躱していきます。

 時には王者の剣で巧みに私の攻撃をいなしています。徹底した基礎技術は伊達ではありません。


 やがて私が放つ連撃のリーチから逃れる為でしょう。


 深く踏み込んだかと思うと——。


「……っ、逃げんなぁっ!」

「悔しかったら……追いついてみろっ!」


 琴男は最後に高く跳躍し、“琴ちゃんサテライトキャノン”でぶち抜いた2階層へと避難しました。

 “封魔の鎧”——つまり“アイテムボックス”の恩恵があるとはいえ、たった1回の跳躍で2階層へと到達するなんて、とても恐ろしいですね。


 私へ追いかけるように挑発してきましたが、大人しくその誘いに乗るほど私は常識人ではありません。

 琴ちゃんはひねくれているんですよ。


 なので私はロングソードを納刀。再び魔法杖としての機能へと戻します。

 それから魔玉の先端を琴男へと向けて、いつもの詠唱を開始します。詠唱です。雰囲気づくりに大事ですよこれは。


「琴ちゃん魔法シリーズ、第1弾——」


 “炎弾”×50発。

 もっと、ダンジョンを壊してしまいましょう!!


「“琴ちゃんキャノン”っっっっ!!!!」

「は、ばか野郎っ——!」


 琴男の悲鳴じみた声が聞こえました。

 そうです、その声が聴きたかったんですよ。


 驚愕、困惑、動揺。

 相手の感情を大きく揺さぶってこその“琴ちゃん魔法”ですから!


「——いけぇっ!!」


 魔玉の先端からぶっ放された“琴ちゃんキャノン”。今回は2階層に居る琴男目掛けて、天井向けてぶっ放します。

 魔法の反動に身体が耐えられなくなり、私の身体は地から離れます。


 ですが当然、それは織り込み済み。

 ずっと前に麻衣ちゃんが見本として見せてくれた時のように、地面を蹴り上げて後方バク宙を披露。“琴ちゃんキャノン”の衝撃を逃がします。


 ……なんだか、麻衣ちゃんの弟子みたいな感じになってますね私。

 一応、麻衣ちゃんの元先輩なんですけど。



 その間にも、“炎弾”を重ね掛けしたことによって生み出された“琴ちゃんキャノン”は相も変わらず凄い勢いで飛んでいきました。

 大気を飲み込むが如く吹っ飛んでいく“炎弾”。それは一周回って無音となり、衝撃波を生み出します。


 閃光が、迸りました。


「“琴ちゃんバリケード”っ!」


 何が起きるか分かったので、私は即座に自身の前に“アイテムボックス”を展開。衝撃から逃れるべく、防御態勢を取ります。


 ついでに聴覚を保護する目的で、耳元に小サイズの“アイテムボックス”を作りました。イヤーマフラー代わりです。

 爆ぜるインパクトに乗じて、ダンジョンに大きくひびが入ります。


 迸る衝撃波が、私の周辺の地形すら書き換えていきます。

 ダンジョンに伸びていた草木は、その衝撃波で削れ飛びました。


 琴男がいる場所を中心として生み出された爆炎は、その勢いを留まることを知らず、上階層をも穿ちます。

 

 3階層を穿ちました。

 4階層に大穴を開けました。

 5階層だったものが落ちてきます。


 ——。


 次から次に“琴ちゃんキャノン”は階層をぶち抜いていきます。

 ダンジョンの残骸が瓦礫となり、直線の切れ目を刻むながら落下してきました。隙間から土煙が侵食してきます。


 私は“琴ちゃんバリケード”を解除して、それから軽く地面を蹴りました。


「“琴ちゃんトランポリン”っ!」


 目の前に生み出した小さな“アイテムボックス”。それにひょいと乗り上げた私は、沈む勢いをバネとして跳躍。

 生体を拒むという仕様が、跳躍力へと変換されます。


 落ちてくる瓦礫の合間を縫って、徐々に琴男へと肉薄します。


「——っ、やべっ」

「逃がさないっ!」

 

 私から逃れるように、琴男も“封魔の鎧”を駆使して跳躍しました。

 琴男はまるで足場を蹴り上げるように、何もないところから再跳躍——を繰り返しています。


 私はそれに追いつくべく、何度も“琴ちゃんトランポリン”を再展開。堅実に、琴男との距離を縮めていきます。

 やがて琴男のシルエットが近づいたのを確認した私は、再度琴ちゃんウェポンの鞘を引き抜きました。


 ぎらりとロングソードの刃が光ります。

 それに“魔素放出”を駆使して高濃度の魔素を纏わせます。


 再び迸る紫電の刃。

 

「これでも……くらえっ! “琴ちゃんブーメラン”っ!!」

「はっ!?」


 何のためらいもなく、剣モードと化した琴ちゃんウェポンをぶん投げました。

 紫電迸る一撃を喰らってはひとたまりもないと判断した琴男は、目の前に“封魔の鎧”を展開、拡大します。


 “封魔の鎧”に弾かれた琴ちゃんウェポンは紫電を散らしながら、明後日の方向へと吹っ飛びました。


 私は飛んでいくロングソードの方面に“格納機能のみを残した“アイテムボックス”を展開。瞬く間にロングソードは“アイテムボックス”へと格納されます。

 それから目の前に排出機能を宿した“アイテムボックス”も展開し、ロングソードを手元に戻しました。


 琴男は“封魔の鎧”を未だ解いていません。


 ——つまり、まだ目の前は見えないということです。


「たっ!」


 私は再び“琴ちゃんトランポリン”を発動させ、空中から高く跳躍。琴男の背後へと回り込みます。

 それから琴ちゃんウェポンを納刀し、再び杖モードに変換。


 大きく振りかぶります。


 私が背後に回り込んでいることに、琴男は“封魔の鎧”を解いてようやく気付いたようです。

 

「——はっ?」

「“琴ちゃんスイング”っっっっ!!」


 ですが、もう遅いです!

 私は琴男の顔面目掛けて、勢いよくスイングを仕掛けました。


 両足が宙に浮いたままなので、威力は大きく出せません。

 ですが目的は琴男を叩き落とすことです。


「ぐっ!?」


 咄嗟に顔面を両腕で覆った琴男ごと、魔法杖でぶん殴りました。

 

 白銀と漆黒。

 二つのオーラが大気に舞い上がります。


 打ち勝ったのは、白銀のオーラでした。


 防御態勢もロクに取れなかった琴男は、私の一撃に吹き飛ばされます。

 位置エネルギーも混ざり合い、高所から急降下していく琴男。


 ですが当然、逃しはしません。



 ——ほら、見て。メタトロン。

 これが私の力だよ。


 殺意が徐々に、身体に溶け込んでいくのが分かります。

 自分の身体と一体化し、力になるのが分かります。


 大丈夫、私は私で居ることができるっ!



 瓦礫となりむき出しになったダンジョンの岩肌を蹴り、私も落下していく琴男目掛けて急降下。

 再び琴ちゃんウェポンを飾る魔玉を突き出します。


 残ったMP(だいたい400くらい)を“アイテムボックス”に変換。

 ……一応、少しだけ残しておきますが。

 

「……琴ちゃん魔法シリーズ、究極形態」


 琴ちゃんの究極魔法を解き放ちます。



「“琴ちゃんブラックホール”っっっっっっ!!!!!!!」


 次の瞬間に解き放たられたのは終焉の魔法。

 400個も重ね掛けされた“アイテムボックス”は、その無限の吸引力を以て全てを飲み込んでいきます。

 “アイテムボックス”としての様相はもはやどこにもありません。


 ただの“アイテムボックス”でしかないというのに、稲妻が迸っています。


 解き放たれたブラックホールによって、むき出しの瓦礫が浮かび上がります。

 かと思えば、次から次に“アイテムボックス”の中へと格納。その過程で、弾丸の如き速度となった瓦礫が落下する琴男を打ち付けます。


「——っ、クソッ! バカ女が……っ!」

「誰がバカ女だ、よっ!!」


 琴男は襲い掛かる瓦礫を“封魔の鎧”で弾きながらも器用に体勢を立て直します。

 襲い掛かる瓦礫を躱し、あまつさえ足場として活用。“琴ちゃんブラックホール”から逃れようと3階層の岩肌にしがみついています。


 ですが当然、そんなの許すはずがありません!!

 琴ちゃん魔法の恐ろしさを思い知れっ! 


「“増幅”っ」


 私はメタトロンのスキルを使い、両足に“魔素放出”を付与しました。

 ほとんど固形となった魔素は、やがて即席の足場となって私の姿勢を安定させます。


 ダンジョンが私の魔法で崩壊していきます。

 これほどまでに馬鹿げた火力を持ち合わせた冒険者なんて、今後生まれないでしょう。


 私は唯一無二で居たいんですよ!

 それの為なら、後のことなんて考えません!!!!


 ですがそんな中でも、琴男は至って冷静でした。


「なあ、琴。安心しろ」


 瓦礫の音が鳴り響く中でも、琴男の声は良く通りました。


「……何。お兄ちゃん」

「お前は1人じゃないってことだ。全部、お前が背負い込む必要はない」

「……っ、分かったような口をして!」

「分かるだろ、お前と俺は同じなんだから」


 “琴ちゃんブラックホール”の吸引力に抗っていた琴男ですが、想定外の行動を仕掛けてきました。

 両足を踏み込み、再び“封魔の鎧”を発動させます。


「っと!」


 それから何のためらいもなく“琴ちゃんブラックホール”へと向かって跳躍。


「——な!?」

 

 馬鹿なのでしょうか琴男は!?

 “アイテムボックス”は生体を拒むんですよ!

 生体を拒んで弾いて、でもまた吸い込むんです。“琴ちゃんブラックホール”に呑まれた相手が一瞬でミンチになるのは、以前確認しました。


 咄嗟に解除しようか迷いました。

 ですがその逡巡している間にも、琴男は私へと距離を縮めます。


 駄目、間に合わな——。


「つらい感情さえも“アイテムボックス”の中に閉じ込めたのは、俺もお前も……同じだ」


 琴男はそれから”封魔の鎧”を操作したかと思うと、鋭い槍の形へと変換。

 槍の形となった漆黒のオーラを、“琴ちゃんブラックホール”へと突き立てます。


 ——2つの“アイテムボックス”が衝突。

 刹那の間、拮抗が生まれます。


 稲妻が迸った、次の瞬間。

 瞬く間に“琴ちゃんブラックホール”は霧散しました。


「……え」


 私の究極魔法、“琴ちゃんブラックホール”が打ち破られました。

 

「……嘘、でしょ……」

「俺の、勝ちだな」


 ほとんどのMPを使い切った私には、もはや抵抗する余力すらありません。

 MPが枯渇したことにより、今の私はほとんど生身と大差なくなりました。


 身体が脱力していくのが分かります。


 徐々に“魔素放出”によって安定させていた姿勢が崩れていくのが分かります。

 その重力に従うように、私は身体を倒しました。


 倒れ込んだ先には、琴男の腕がありました。

 “封魔の鎧”で空中に足場を作った彼は、落下しようとしていた私の身体を抱き留めます。

 

 彼は勝ち誇ったようなしたり顔で、私を見てきました。

 

「……最強の冒険者は、伊達じゃないだろ?」

「抱きかかえられるなら、恵那斗が良い……」


 琴男の発言を無視して不服を訴えると、琴男は苦笑を漏らします。

 

「諦めろ。お兄ちゃんが外に連れ出してやるよ」

「……馬鹿、お、にい……ちゃ……」


 全身の力が抜けていきます。

 もはや自身の意識をつかみ取ることすら難しいです。掴もうとしても空を切るような気分ですね。


 朧げな意識でちらりと“琴ちゃんブラックホール”の余波を確認しましたが、もはや凄惨というより他ありませんでした。

 むき出しとなった瓦礫の山が、地面を埋め尽くしています。

 舞い上がった土煙がそれら全てをなぞるように覆っていました。


 ……それほどの威力を持ち合わせた魔法ですら、琴男には敵わなかったんです。

 上には、上がいる。


 そのことを実感しながらも、私の意識はぷつりと途切れました。

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 ん~…やはり琴男さんが勝ってしまいましたか。能力差も結構有りましたし、元は同じ人間=完全な初見殺し技はお互い少ないですからなぁ…。 今の琴男さんに勝てない→もし魔王になったら間違…
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