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第224話 様々な側面

 “増幅”。

 メタトロンの身体を経由して、私に与えられた新たなスキルです。

 効果はその名前の通りで「魔法の密度を大幅に向上させる」というものでした。


 平たく言えば攻撃魔法や補助魔法、果ては回復魔法にまでバフを掛けることができる、高性能なスキルです。

 創作物で良く見かける、非常に優秀なスキルだと思います。


 ですがもともと「重ね掛け」という手段を取っている私にとって、あまり役に立つスキルではありません。

 ……私がおかしいんですかね、これ。いやいや、そんなことは無いはずです。


 本来は「攻撃魔法の威力を増幅させる」という機能を持ち合わせたスキル。ですが、普通の使い方ではやはり楽しくありません。

 威力増加なんて今更ですし。冒険者という存在自体、今となってはエンドコンテンツなんですよ? 裏ボスを倒した後で最強の武器を貰ったような気分です。

 まあ魔王という討伐対象が居るので許しますが。通常業務では使う意味を見出せないですね。

 

 挙句、“増幅”のクソなポイントは“アイテムボックス”は適応外だったということです。

 “アイテムボックス”に“増幅”を掛けられる仕様だったら、私は嬉し涙を零していたことでしょう。ですが結果としては、適応外。クソオブクソです。

 ……心の中のメタトロンが、非常に不服を訴えかけてきている気がしますが。私は知りません。


 なので、私はこの“増幅”の楽しい使い方を考えました。

 ポイントとしては「魔法の密度を大幅に向上させる」という仕様ですね。


 密度。

 なるほど、なるほど。



 あ、そう言えば忘れる前に説明しておきます。

 ずーっと前に、パパの心臓が魔物に貫かれて命を落とした時あったじゃないですか。メタトロンが私の身体を乗っ取って、謎の力で蘇生させた技術です。

 その時にもどうやら“増幅”が使われていたようです。


 イナリちゃんがパパの亡骸に付与してくれた“治癒魔法”を、メタトロンは“増幅”によって効果を大幅に向上。

 強制的に回復力を引き上げた上で、心臓まで復元したということのようです。


 ……異世界の魔法というのは、恐ろしいものですね。

 “治癒魔法”を会得しているイナリちゃんとの協力が必要になりますが、理論上は唯一無二の“蘇生魔法”を手にしたということになります。

 

 あ、だからと言って死んでも大丈夫ということではありませんよ。

 「生かす技術が生まれる」ということは「使わなければならないという責任が生まれる」ということでもあります。

 

 

 どちらかといえば、ですが。

 疑似的とはいえ蘇生魔法が使えるようになったのは、私は結果的にデメリットだと考えています。


 この技術は使わないに越したことはありません。

 もし、蘇生魔法が使えるということを大衆が知れば……どうなるでしょうね。

 大金をはたいて大切な人を蘇らせたい、という人は多くいるでしょう。大富豪の人達があらゆる力を使って冒険者を匿おうとしたり、果ては異世界の力を自分達で占有する動機付けになりかねません。


 人を生かす力は、その力を持ち合わせているが故に人を殺す力となりかねません。

 なので、私は“増幅”を蘇生目的で使う気はありません。

 

 そして……この力を公にするつもりも、毛頭ありません。

 

 自分の命が消えていく恐怖感だって、そう何度も体験させるのは鬼畜の所業ですし。

 ただ「死んだ人が生き返って嬉しい」というだけで終わらないのが、この世界の辛いところですね。


 

 ……さて、現実に帰って来ましょう。

 私が対峙しているのは、かつての私である田中 琴男です。

 彼も彼で、かつての最盛期の姿を取り戻しました。私が異災に巻き込まれ、冒険者を志すことになった頃の姿をしています。


「さあ、いつでも来い」

 

 琴男はダンジョンの最深層付近に登場するキングゴブリンから手に入る“王者の剣”を握っています。

 黎明期においては、最終モンスターテーブル層まで辿り着くことが出来る冒険者がほとんどいなかったことから、かなり貴重な武器でした。名声の証として、S級冒険者パーティはこぞって持ち歩いていましたね。

 

 現代においては名声よりも、業績の方が優先されることになったので王者の剣を持つ意味合いが薄れましたが。支給武器のロングソードでも攻撃力は事足りますから。

 それでも琴男が王者の剣を用いるのは、「過去の存在であることを忘れないように」という戒めを込めているそうです。


 ……過去に囚われるな。


 私は大きく深呼吸して、“アイテムボックス”から琴ちゃんウェポンを取り出します。

 持ち手を見れば、いつの間にか細かい傷が増えていましたね。


 汚れの落ちない煤が染み込んでいたり、魔玉に細かい傷が残っていたり。今となっては、長い戦いを共にしてきた相棒のような存在です。


 魔法杖と、ロングソード。

 二側面の姿を持つ琴ちゃんウェポンは、まるで私の生き写しです。


 沢山の側面を持っているのは、私だって同じですから。

 

 47歳男性という中身と、16歳少女という外見。

 田中 琴男と、メタトロン。

 ……過去と、未来。

 

「……うん。大丈夫、私は……私だ」


 あれほど拒絶していた、メタトロンの身体から滲み出る殺意だというのに。ひとたび受け入れれば、自然と身体に馴染むようでした。

 全身からあふれ出る殺意を、俯瞰している自分がいます。


 様々な側面を持っている、それが私ですから。


 魔玉の先端へと意識を集中させ、メタトロンから付与されたスキルを発動させます。


「……“増幅”」


 スキルの発動に伴って、琴ちゃんウェポンが微かに揺れました。内から放たられるエネルギーが、今にも暴れようとしているのを感じます。

 本来は攻撃魔法の増強に用いられる”増幅”。


 ですが、ありきたりな使い方はしたくありません。

 琴ちゃんの信条に反します。


 であれば、どの魔法を高密度のエネルギーに変換して解き放つか。

 ……丁度、良いのがあるじゃないですか。



 ——“魔素放出”。



「“琴ちゃんビーム”っ!」

「——っ!?」


 琴ちゃんウェポンの先端から、効果を増幅させた“魔素放出”を解き放ちます。

 “増幅”によって密度がさらに圧縮された“魔素放出”は、やがて白銀のビームとなって解き放たれました。

 純粋な高密度のエネルギーが、そのまま大気を穿ちます。


 元々“魔素放出”をここまで技術として鍛え上げた冒険者は私くらいのものです。

 本来は戦闘に役立たたない、鍛えても無駄でしかない魔法なのですから。鍛えたところで“身体強化”と同じ効果にしかならない、磨くだけ時間の無駄とも言える魔法です。


 ですが、無駄なことに時間を割いてきた私だからこそ。

 今、この時。


 唯一無二の攻撃手段を、私は手に入れました。


 大気を穿ちながら襲い掛かる白銀のビームを、琴男は咄嗟に横っ飛びして回避します。地面を蹴り上げた拍子に舞い上がった土煙を、琴ちゃんビームが貫きました。

 回避した琴男へと、再度照準を合わせ直します。


「“琴ちゃんビーム”!」

「っ、おま、お前っ……反則だろそれ!!」


 純粋なエネルギーの塊と化した“琴ちゃんビーム”を連発します。

 想定外の攻撃に、琴男は懸命に身体を捩らせて回避を繰り返していました。


 その回避の間にも、私は次の攻撃手段を構築していきます。

 少ない素材から、様々な魔法を編み出す。琴ちゃんの得意技です。


 琴男の意識はビームへと向いています。

 

 ……その間に、琴男の頭上へとこっそり“アイテムボックス”を発動させました。


「お兄ちゃんなら、これも受けられるよね」

「……何をするつもりだ……っ!?」


 攻撃の合間を縫って、次に“炎弾”を脳内で構築していきます。構築した魔法を、魔玉へと溜め込みます。

 

 おおよそ、30発ほどの“炎弾”を重ね掛け。

 次に、眼前に格納機能のみを付随した“アイテムボックス”を生み出します。


 琴男の頭上には、排出機能のみを残した“アイテムボックス”。


 お届けしましょう、琴ちゃん魔法シリーズ……新作。


「”琴ちゃんサテライトキャノン”っっ!!」

「——っ!」


 琴男の頭上から降り注ぐは、たくさん重ね掛けした“炎弾”によって生み出される高火力馬鹿魔法。“琴ちゃんキャノン”です。

 今となっては魔法攻撃も480となりました。黎明期なら魔法だけでボスモンスターを簡単に消し飛ばせる数値です。


 そんな数値から解き放たられる“炎弾”を30発も重ね掛けすれば、どうなるでしょうか?

 もはや会得した頃の“琴ちゃんキャノン”が可愛く見えるレベルですね。



 まず、琴男目掛けて天井付近から垂直に落下させた“琴ちゃんキャノン”ですが。

 大気を取り込んで、激しく砂煙を舞い上げました。

 迸る衝撃波が、天井にひびを入れました。


「……っと。さすがに危ないか」


 私自身も巻き添えを喰らうと直感的に感じ取ったので、とっさに”琴ちゃんバリケード”として“アイテムボックス”を再展開。防御態勢を取ります。

 

 灼熱の爆風が天高くまで登り、ひびの入った天井に穴を開けました。2階層がこんにちはしました。

 ダンジョンの階層をぶち抜くレベルの高火力魔法というのは聞いたことがありません。つまり私が初の快挙ということになります。


「——っ……」


 轟音が聞こえているはずなのですが、不思議と何も感じませんでした。

 どうやらあまりにもうるさ過ぎて、一周回って何も感じ取れなくなったようです。

 “琴ちゃんバリケード”によって、直接的な反動は防げていますが……その余波はバリケードを超えて襲い掛かります。銀髪が激しくなびき、頬を叩きつけるのが分かります。


 徐々に琴ちゃんウェポンの余波が収まるにつれて、轟音が聞こえ始めました。どうやら私の聴覚で感じ取れるレベルに戻ってきたようです。

 ぶち抜いた天井から落下してきた瓦礫が、やがて琴男が居た場所を埋め尽くします。


 ですが私は油断しません。

 

「……これで終わりじゃあ、無いでしょ?」


 本来であれば、これ1発で琴男なんて消し炭でしょう。

 ですが、私のことは私が一番信じています。



 その期待に応えるように、瓦礫が微かに揺れ動きました。


「……お前、それ……恵那斗の前で使うなよ」

「分かってるよ。お兄ちゃんなら大丈夫だと思ったから使ったの」


 瓦礫の中から、琴男のため息交じりの声が聞こえます。

 かと思うと、瓦礫の中から漆黒のオーラが天地を貫きました。


 オーラの残滓が、その跳躍の軌跡を残します。


「……っと」


 瓦礫の中から現れたのは、漆黒のオーラを纏った琴男の姿でした。

 高く跳躍したかと思うと、すたりと瓦礫の上に着地します。


 全身には、傷どころか煤ひとつ付いていません。

 安物の灰色のパーカーですが、焦げた痕跡すらありませんでした。


 ……私が見たことのない、不思議な魔法ですね。


「お兄ちゃん、見たことのない魔法を使うんだね」

「どうだ、カッコいいだろ? 闇の力って感じでさ」

「中二病みたいでダサい」


 漆黒のオーラを見せつけるように、ニヤリと不敵に微笑む琴男。

 ですが私からすれば、正直辟易とした気分にしかなりません。


「……ふふっ、あはっ」

 

 うん、大丈夫です。

 私は楽しめます。


 琴男が全てを受け入れてくれるんです。

 全力の殺意を持って、琴男に全てをぶつけましょう!


 

 【田中 琴男】

Lv:107

HP:1075/1075

MP:545/545

物理攻撃:764

物理防御:651

魔法攻撃:253

魔法防御:890

身体加速:125


【田中 琴】

Lv:43

HP:251/251

MP:584/584

物理攻撃:74

物理防御:124

魔法攻撃:480

魔法防御:316

身体加速:71



 ……さすがに、琴男のステータスには勝ち目がありませんからね。

 無駄に物理防御も魔法防御も高いの、なんなんでしょう。過去の私。

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