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ベテランに見られないTSダンジョンおじさんの日常  作者: 砂石 一獄


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第195話 もう、戻れない

「“琴ちゃんブースト”っ!」

 

 私は両足へと“魔素放出”を発動。高濃度の魔素が、白銀のオーラとなって両脚に纏わりつきます。


 自らの身体能力を大幅に向上させる技術を持って、勢いよく地面を蹴り出しました。

 その勢いに付いていくことのできなかったダークゴブリンの首を、剣モードに移行させた琴ちゃんウェポンで勢いよく薙ぎ払います。


 ずるりと付着した真紅の血液が、辺り一帯に飛散しました。レンガの壁にべしゃりとへばりついた血液が、ダークゴブリンの絶命を知らせます。

 

 そんな私の隙を狙っていたのは、1体の通常個体ゴブリンでした。

 ですが当然、読めています。


「おっと、危ないなぁ」

「ギィッ!?」

 

 まさか回避されるなど想定外だったのでしょうか。

 ダガーの突きで私の胸元を貫こうという算段だったのでしょうが、私はひらりとそれを身体を逸らして回避。


 空を切るダガーを前に、ゴブリンは呆けた顔を向けました。

 うん、やっぱり嗜虐性に満ちた顔をしていますね。


 やはり潰し甲斐があるというものです。

 という訳で、“アイテムボックス”で潰しちゃいましょう!


「“琴ちゃんプレス”っ!」

「ガ、ギギャ……」


 “アイテムボックス”を左手に発動させ、そのまま勢いよくゴブリンを地面に叩きつけました。生体を排出するという機能を最大限に悪用した琴ちゃんの得意技です。

 地面に叩きつけられ、身動きの取れなくなったゴブリン。石畳に圧迫されたゴブリンですが、やがて真紅の血液を撒き散らすと共にその身体は“アイテムボックス”に格納されました。

 

 

 【田中 琴】

Lv:26

HP:194/194

MP:381/381

物理攻撃:65

物理防御:91

魔法攻撃:317

魔法防御:220

身体加速:62



「はっ!」


 先陣を切った私に付いていくように、恵那斗は蛇腹剣を鞘から引き抜いて駆け出しました。

 彼を迎撃するように、立ちはだかっていたホブゴブリン。2mをゆうに超える体躯を持ったそのゴブリンは、恵那斗を叩き潰さんと巨大な棍棒を振り上げます。


 ですが恵那斗は当然、その攻撃など予想済み。

 蛇腹剣へと視線を落としながら、彼は静かに、けれども透き通るような声で唱えました。


「“魔素放出”」


 次の瞬間には、恵那斗の持つ蛇腹剣が本来の力を発揮しました。

 鱗のような蛇腹剣が、繋がれたワイヤーをむき出しにします。高濃度の魔素に呼応するように分離したそれは、やがて意思を持った巨大な蛇のように、恵那斗を守るように動き始めました。


「攻撃なんて、させる訳ないでしょう?」

「グギャッ!?」

「隙だらけね」

 

 恵那斗はすかさず、伸びたワイヤーを操作してホブゴブリンが振り上げた棍棒へと巻きつけます。

 今にも振り下ろさんとしていた棍棒を操作できなくなったものですから、ホブゴブリンは体勢を切り替えることが出来ずに困惑の声を漏らしました。


 その隙に懐へと滑り込んだ彼は、素早く蛇腹剣を元に戻します。


「はあっ!」

 

 流れるような一連の動作の下、彼は勢いよくその肉厚の刃を叩きつけました。

 痺れるような重撃が、ホブゴブリンの脇腹を貫きます。動脈を傷つけられたホブゴブリンの体躯が、ずるりと崩れ落ちました。

 

 

【田中 恵那斗】

Lv:17

HP:210/210

MP:118/118

物理攻撃:150

物理防御:108

魔法攻撃:64

魔法防御:74

身体加速:57



「ほっ。安直な攻撃しか出来んのか。お前さんらは」

「ギィッ……!?」


 メイジゴブリンが放った“炎弾”を軽く跳躍して回避したイナリちゃん。彼女はダンジョンの壁を蹴り上げながら、まるで反射するボールのように接敵します。

 近接戦闘能力を持たないメイジゴブリンは、イナリちゃんの猛スピードに翻弄されています。


 彼女はメイジゴブリンの背後から着地したかと思うと、腰に携えていた小太刀の鞘を引き抜きました。

 ぎらりと煌めく銀色の刃が軌跡を描きます。


 その軌跡は、メイジゴブリンの頸動脈と重なりました。


「ではの、小童(こわっぱ)よ」

「……カッ……」

「昨今の魔法使いは、近接戦闘も磨いておるぞ。魔法使いは近接をしなくても良い、という訳ではなかろうて」

 

 喉元を掻き切られたメイジゴブリン。

 まともに呼吸することが出来なくなったメイジゴブリンは、喉元を抑えて静かに崩れ落ちました。

 

 

【イナリ】

Lv:24

HP:174/174

MP:105/105

物理攻撃:121

物理防御:100

魔法攻撃:74

魔法防御:120

身体加速:230



「はー……なんというか、戦闘がスマートに運ぶようになってきましたねぇ……」


 私たちの戦いを後方から見守っていた麻衣ちゃんは、そう感嘆とした声を上げました。

 次から次に魔物を屠り続ける私達の姿に、もはやコメントを差し込む余地を見出せなかったのでしょうね。


 同じように後方で見守っていた琴男も、満足げに頷いていました。


「ああ、ようやくあいつらも実力をいかんなく発揮できるようになったんだろ。それだけレベルも上がってるんだ」

「研修を開いた意味を見出せるので、私達としても嬉しい限りですねぇ……」


 琴男の言葉に、麻衣ちゃんは心底嬉しそうに頷きました。

 

 “異世界の呪い”とでも言うのでしょうか。

 異世界の存在という肉体を付与された私達ですが、長い月日を掛けてようやくまともに戦えるまでのレベルへと上がってきました。


 ですが当然、その間にもメタルスライムを倒すのは忘れません。


「恵那斗っ! メタルスライム発見したっ!」

「琴、任せてもいいかしら」

「当然だよっ。行くよ、ゴブリン弾丸……装填っ!」

「……私はコメントしないわよ」


 私が嬉々として“アイテムボックス”を発現したものですが、恵那斗はため息を吐きながらそう呟きました。

 んふふ、その反応自体が十分な意味を持っているので大丈夫です。


 本当にコメントしないのであれば、無言でメタルスライムの元へと特攻しているはずなので。

 なんだかんだ、私の行動に反応を示してくれる恵那斗。そういうところ、本当に大好きです。


 という訳で今回も琴ちゃん魔法のお時間です。

 まだ私達の存在に気付いていないメタルスライム目掛けて、私は“アイテムボックス”を駆使して即席の大砲を作り上げました。

 構造に関しては説明すると長ったらしいので、そろそろ省略していきます。要約すると「ゴブリンを射出できるように改造した“アイテムボックス”」です。


 スライムの粘液を纏わせたゴブリンの死骸へと、お得意の魔法である“魔素放出”を付与。白銀のオーラを纏わせたゴブリンの死骸を、勢いよく射出します。


「おらーっ! いっけー! “ゴブリンショットver.2”っ!!」

「名前変わってるし……」


 恵那斗が冷静なツッコミを入れてきました。

 だって、“シルバー・ゴブリンショット”と名付けたのは良かったんですよ。ですけどやっぱり語感が悪かったので、琴ちゃんが呼んでいて楽しい技名に直しました。

 何度でも楽しい呼び方に直すことができるのは無詠唱魔法の特権ですね。うんうん、偉い。


 やろうと思えばだんまりでゴブリンを射出だって出来るんですけど、それだとただ不気味な行動で終わっちゃうので。琴ちゃんは楽しい方向に全振りしますよ。んふふ。


 そんなこんなで吹っ飛びますは白銀のオーラを纏ったゴブリンの死骸。なんかぴかーって光っているのが受けますね。馬鹿楽しいです。

 銀色に煌めきながら飛んでいくゴブリンの死骸は、瞬く間にメタルスライムへと着弾。


「ピィッ……!」


 高濃度の魔素を纏わせた一撃により、白銀のジェルが大きく辺り一帯に飛び散ります。

 自らの核を守る粘液を失ったことにより、メタルスライムの行動能力は大幅に減退。ずるずると懸命に逃げようとしますが、もはや逃げることなど敵いません。


「”魔素放出”」


 そんな隙を当然、恵那斗は逃がすはずもありません。

 高く振り上げた蛇腹剣は、恵那斗がそう詠唱したのに伴ってワイヤーを伸ばしていきます。


 リーチが大幅に伸びた蛇腹剣を以て、恵那斗はメタルスライムへと別れの言葉を告げました。


「好奇心を得た琴に、勝てるなんて思わないことね」


 最後にそう告げた後、蛇腹剣は勢い良く振り下ろされました。

 恵那斗の動作に微かにラグを起こしつつも、勢いよく鞭の如くしなる蛇腹剣は振り下ろされました。遠心力を以て放たれるインパクトは、瞬く間にメタルスライムの核を破壊。

 崩壊した核から、溶け出す白銀のジェルだけが戦闘の終わりを告げました。


 その瞬間、私は見逃しませんでした。


「……っ」

「恵那斗……」

「……いえ、大丈夫よ」


 恵那斗が額を抑え、苦悶の表情を浮かべていたのを。

 ですがそれも束の間のことで、すぐに首を横に振って意識を切り替えました。


 向き直った彼の顔色は、平時と同じように見えました。

 それは、意図的に平時の表情を作っているかのようでした。


 知ることによって、気付かなかった頃の自身を失ってしまう。

 恵那斗は、これから何を知ってしまうのでしょう。


「……もう、戻れないんだ」


 私達には、ダンジョンを介して真実を知る。

 それしか選択肢は残されていません。


 今すぐに知るか、不本意なタイミングで情報を享受するか。ただ、それだけの違いです。

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