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ベテランに見られないTSダンジョンおじさんの日常  作者: 砂石 一獄


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194/240

第193話 情報過多

「んふ、んふふ……」


 イナリちゃんの様子がおかしいです。

 なんだか分かりませんが、不気味なくらいずっとニコニコとしています。


 ご機嫌そうに尻尾が左右に揺れています。

 

「……イナリちゃん、どうかしました?」

「んー……儂は何ともないぞ。んふふ……んふっ、ふ……」

「……えっと」

「琴ちゃんはいつ恵那斗君とくっつくんじゃ。ほれ、早う孫の顔を見せんか……んふ……」

「んぇっ」


 な、ななななななななぁぁぁんてことをいきなり言うんですかっ、この狐耳幼女はっ!?!?!?

 とんでもない爆弾発言をかますものですから、つい顔が真っ赤になっちゃいました。


 というか孫って何ですかぁ孫って!

 いつから私はイナリちゃんの娘になったんですかぁっ!?


 ……ん?

 娘かな。息子かな。

 どっちでもいっか、うん。

 

「んふふ……早うくっつかんか……」


 イナリちゃんが変です。

 普段なら絶対言わないトンデモ発言ばっかりしてくるんですけどっ。ああもうっ、思考をかき乱すのは止めてくださいっ!


 そんなやり取りをしている最中、廊下から男性陣の声が響きました。


「なぁ、恵那斗さ。お前記憶思い出した?」

「あー。俺はまだ何となくしか……」

「そっか、思い出したら教えてくれよ。イナリのケースを考えると、多分レベル20~30辺りで思い出してくるんじゃねぇかな」

「……だと良いけどな」


 ん?

 恵那斗の声ですよね?

 恵那斗の声であるはずなんですけど、女性口調じゃないです。ただの好青年みたいな口調が聞こえるんですけどっ。


 気のせいですかっ。

 気のせいじゃないですよねっ。


 という訳で私は廊下を歩く男性陣の元へと顔を覗かせようとしました。

 ですが、そんな私にしがみついたのはイナリちゃんです。

 

「わぶっ」

「のぅ、琴ちゃんや。儂を置いていくのかのぅ……。儂みたいな老いぼれは邪魔かのぅ……?」

「い、イナリちゃん……? い、いや、その……」


 いきなり行動を阻止してきたイナリちゃんを引きはがそうとしますが、彼女はまるで離れようとしません。

 がっしりと私をホールドしながら、ぷるぷるとその小さな体を震わせます。

 

 

 ちなみに今私達がいるのは、女性部屋として割り振られた寝室です。

 壁際には麻衣ちゃんが団子のように丸まっていました。

 

「んずぅ……すみません。本日中には資料を提出します……はい、はい、すみません……はぁ……あー、今日も時間魔法使って睡眠時間確保しよ……」


 ……などと、麻衣ちゃんが不穏な寝言を呟いています。大丈夫ですかね、全日本冒険者協会。

 ものすごくブラック企業を彷彿とさせる発言していますけど。あの。あの?


 “時間魔法”とかいうぶっ壊れ魔法ってそんな使い方をする為に活用されるものじゃないと思うんですよ。

 どうして皆して、魔法を変な使い方するのでしょう。私は理解に苦しみます。琴ちゃん魔法シリーズ?何のことでしょう。

 

 

 カオス空間の中、イナリちゃんは私の身体に顔を擦り付けてきました。

 

「んぇ、んええええ……なんでじゃあ。なんで儂を置いていくんじゃあああああ……のぅ、のぅ……琴ちゃんやぁ……お前さんは儂の味方よのぅ!?」

「あ、あー……大丈夫ですよ。イナリちゃん、ほら。私はイナリちゃんの味方ですっ。よーしよしよしよし……」


 とりあえず幼児退行したイナリちゃんを撫でてあやしていると、彼女はまるで蕩けたような笑みを作りました。


「んひゃ、ふへ、ふへぇ……」


 喜びの感情に呼応するように、尻尾はブンブンと大きく左右に揺れます。あまりにも激しく揺れるものですから、定期的に私の身体にぺちぺちと当たっていました。くすぐったいです。

 

「むふ。むふふふふふふ……んん。やっぱりお前さんは天使のようじゃ……」

「天使ですけど」


 あの。

 誰か助けてくれませんか。

 さすがの琴ちゃんでも情報を処理しきれません。


 なんですかこのカオス空間は。



 ——あなたの行動、あなたの選択が導いた、ひとつの結末です。あなたには、それを享受する義務が——。



 うるさいですねぇメタトロンはぁ!!!!

 今情報を整理しているんですから黙っていてくださいよぅ!!

 

 何シレッと出て来ているんですかさっさとすっこんでいてくださいっ。レベルが上がって自我を出せるようになったからかは知りませんが、時々私の思考に割り込まないでほしいものです。クソボケ大天使が。



 ——クソボケ大天使って……神に一番近い存在なんですが。私。



 だああああああああ!!!!

 もおおおおおおおお!!!!

 情報を増やすなあああああああああああ!!!!


 琴ちゃんをいじめるのは止めてください。

 なんですか、この状況。

 

 ……えっと。

 本日は、レベルアップ研修3日目です。

 なんだかんだで3日目です。折り返しです。


 えっと、えーーっと……。

 まずは、何から整理しましょうかね。


「んふ~~……琴ちゃんのシャンプーの匂い、落ち着くのぅ……ちぃと儂もマーキングさせてもらおうかのぅ」

「……イナリちゃん……?」


 まずはこの身体を擦り付けている狐耳幼女からですかね。

 私の身体に執拗なまでに頬ずりしています。


 可愛いんですけど、普段の言動とのギャップがぶっ飛んでいるので困惑しかありません。

 まるで飼い主に懐く犬です。


 私は飼い主ですか? ……って質問すると何だかア〇ネイターみたいですね。どちらかといえばそうです。



 あの。

 認めたくないんですけど。

 私はイナリちゃんの現状に、心当たりがあります。


 という訳で、私は未だに毛布にくるまったままの麻衣ちゃんを起こすべく、起き上がろうとしました。


 ですがそれをさせないのはイナリちゃんです。


「のぅ、儂はご飯を食べたかのぅ。のぅ、のぅー……?」



 などと私の身体を揺さぶりながら訴えかけてきます。

 あまりにもつぶらな瞳で訴えかけてくるものですから、無視するわけにもいきません。

 

「お、おじいちゃん。落ち着いて、まだ朝ご飯は食べてません」

「ぬぅ! そうかそうかっ。それではちぃと散歩に行ってくるかのぅ」

「ま、待ってぇっ! 駄目ですってぇ!」


 唐突にイナリちゃんは立ち上がったかと思うと、そのまま寝室を出て行こうとしました。

 駄目です、今のイナリちゃんが宿泊施設から出ると徘徊行為になりかねません。


 なので慌てて私はイナリちゃんを抱き上げて引き留めます。

 するとイナリちゃんはむくれた表情で頬を膨らませて、尻尾を大きく揺らしました。私の頬に尻尾がぺちぺちと当たりました。


「なんじゃ、琴ちゃんや。儂の好きにさせいっ」

「イナリちゃん、ちょっと落ち着きましょう。ほら、ね?」

「儂は落ち着いておるぞっ。ボケておらんっ」

「……ああもうっ」


 あまりにも暴走し続けるイナリちゃん。さすがに手を焼くのも疲れました。

 なので、私はイナリちゃん専用の一撃必殺技を放つことにしました。


 まずはイナリちゃんを床に着地させます。ですがしっかりとイナリちゃんはホールドしたままにします。

 手を離すとどこかに逃げちゃいそうなので。


 行きますよっ。消費MP0で放たれる、対イナリちゃん特化の必殺技をっ。


「んひゃあっ」

 

 という訳で私は、イナリちゃんの狐耳を掴みました。

 イナリちゃんは耳が弱いので。神経が集まっているからでしょうか、狐耳を摘まむと彼女は全身を硬直させて固まってしまいます。


 ペタンとへたり込んだのを好機と取った私は、そのまま座ってイナリちゃんの狐耳を揉みしだきました。軟骨のコリコリとした感覚が心地良いですね。


「イナリちゃんは落ち着こうね」

「ひゃ、んん……く、くすぐったい……やめ、んひゃぁ……」

「……」

「んひゃ……ふへ、ふへへぇ……」

「うん、これで大丈夫ですね」


 狐耳をしばらく揉みしだくと、イナリちゃんは蕩けた顔を浮かべながら私の膝の上で丸まりました。母性をくすぐる行動ばかりとってくるので可愛いです。

 正直、このままイナリちゃんを堪能したいですけど。さすがに研修中なので……。


 という訳で、恍惚とした笑みを浮かべるイナリちゃんを床に寝そべらせて、未だに寝言を吐き続ける麻衣ちゃんを起こしに向かいました。


「麻衣ちゃん、起きて。起きて」

「……んぅー……ん、はい。はい、直ちにダンジョンへ向かいます。討伐ノルマが足りてないんですよね、はい、すみません……」

「落ち着いてください。今はレベルアップ研修会場です。麻衣ちゃんがいるのは山奥にあるダンジョンですよ」

「……ん? あ、は……おはよ……琴ちゃん」


 身体をゆすって起こすと、麻衣ちゃんはぼーっとした顔で私を見つめてきました。

 寝言がやばいことには触れません。触れてはいけません。


 しばらくの間、麻衣ちゃんはきょとんと眼を丸くしていました。その後、彼女は不思議そうと首を傾げます。


「どうしたの、琴ちゃん」

「ん」


 報告するよりも実態を見てもらった方が早いと思い、私はイナリちゃんの方を指差しました。

 蕩けた笑みを浮かべながら、尻尾を畳んでワンちゃんのように丸くなっているイナリちゃんへと。


「イナリちゃんにポーションを飲ませてあげて」

「……琴ちゃん2号……」

「ちょっと」


 何ボソッと言ってるんですか。

 魔力枯渇症候群を琴ちゃん呼ばわりは止めてくださいっ。不本意です、私は不本意ですよっ。


「んふふ……んんー……にゃあ……」

「……っ」


 完全にふやけてしまったイナリちゃんを見て、麻衣ちゃんは顔を真っ赤にしました。

 それから、私の方に振り返ります。


「……イナリちゃん、このままにしておいていいかなぁ~……?」

「私も同じ気持ちだけど、後でイナリちゃんに怒られたくないよ」

「まぁ……仕方ないかぁ」


 そう言って、麻衣ちゃんは持参していたクーラーボックスの中からポーションを漁り始めました。


 ……朝から、疲れました。

 なんですかこのカオスな空間は。


 情報過多です。

あーーーーーーーっ!!!!

また間違えて予約更新1日早く出しちゃいました!!!!!!!(2時間経って気づいた)


すいません!!

4月9日は更新お休みにします!!!!!!

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