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第188話 固有スキル

「……ぬ」


 イナリちゃんの様子が妙です。

 琴男お兄ちゃんに視線を送っては、自分が抱いている感覚に疑問を抱いているように首をかしげていますね。


 この言い回しだけで見れば「恋する乙女」みたいなんですけど。イナリちゃんが琴男に? ぷぷっ、ないない。

 

 恋と言えばですが。ゆあちーが琴男に恋しているのだって納得してないですからね、私は。

 時々あの子が「琴男お兄さんの好きなものって何?」って聞いてくるのがすごく嫌です。

 私の思考そのままなら、お酒を与えたらまるで女神かのように崇めるんですけどね。

 最近の琴男は健康優良児とか言うつまらない人間に成り下がってしまったので分かりません。

 自分自身のことなのに分からないって変な感じですね。


 さて、本題に戻りますが。

 雰囲気から察するに、イナリちゃんも「体に宿った記憶」が戻ってきているのでしょう。

 

 「“狐火”を使えるか?」という問いは随分と意地悪だったと思います。だって、あの時は明らかにイナリちゃんとは別人格が宿っていましたから。

 

 

 なので、この質問に答えられる時点で。

 ①自我が抜けていなかった。

 ②使えるか分からないけど適当に使えると答えた。

 ③本能的に使えると理解した。


 のいずれかに該当しますからね。


 

 ①に関しては、イナリちゃん自身が「記憶が抜け落ちた感覚」と言っていた為に当てはまりません。


 ②は……イナリちゃんはそういう曖昧な返事をする子じゃないって言うのは分かっているので。

 ちなみに私はやります。出来なかったら「あれー? 出来ると思っていたんですけどね。えへへ」ってすっとぼければいいだけですし。ダメですか。


 なので、この場合は③が相応しいのではないか、という答えに辿り着けるという訳ですね。

 琴ちゃんの連想能力を馬鹿にしちゃいけませんよ。んふふ。


 イナリちゃんと言えば、近接戦闘特化の最強冒険者です。

 ステータスが低いことを本人は気にしていましたが、“身体加速(素早さ)”が常軌を逸したレベルで高いので問題ありません。


 むしろ身体加速だけ機能していれば、他のステータスに関しては技術で代用可能なので。

 だってレベル24とかで既に三上パパの身体加速を超えているんですよ?

 そんなイナリちゃんが“狐火”なんて遠距離攻撃スキルを会得しちゃいました。もうその時点で鬼に金棒。与えちゃいけない人物にスキルを与えちゃいました。


 あ、でもその前に確認するのを忘れていたことがありますね。


「イナリちゃん、イナリちゃん」

「ぬ、どうした琴ちゃん」

「イナリちゃんのMPって今は25でしたよね?」

「ふむ、そうじゃが」

「次“狐火”を使った後、もう一度ステータス画面を見てみましょうっ。どれくらいMPを使う技なのか、把握しておきたいです」


 理由を交えてそう説明すると、イナリちゃんは納得したように「ふむ」と頷きました。

 それからきょろきょろと周囲を索敵するように見渡した後、コクリと頷きます。その動きに連なって、金色の髪がふわりと揺れました。


「うむ、琴ちゃんの意見に異論はないぞ。それに、儂も固有スキル……という扱いでよいのかの? それの使い方も把握しておきたいの」

「固有スキル……良い響きですねっ」

「……羨ましそうにするでない……と、おしゃべりは一旦やめんか」


 イナリちゃんはそこで言葉を切り、くいっと私の手を引いてある方向を指し示しました。そこにはレンガの壁に隠れていたゴブリンの群れが、虎視眈々とこちらの命を狙わんと様子を伺っているのが見えました。


 黄緑色の皮膚をした通常個体のゴブリンが4体。

 それらを取り仕切るのは、ゴブリンの上位種に該当する深緑色の皮膚が特徴的なダークゴブリンですね。まあ死骸になれば皆等しく薄汚れた茶色に変色するので、大した差は無いのでしょうが。

 

「魔物が見えましたね」

 

 イナリちゃんの意図を察した後、私達はそれぞれ戦闘態勢を取りました。

 

 私はメイン武器である琴ちゃんウェポンを構えます。杖モードです。

 隣に並んだ恵那斗も蛇腹剣を鞘から引き抜き、静かに戦闘態勢を整えました。


 イナリちゃんは私達の前に出た後、小太刀を鞘から引き抜いて構えます。

 

「うむ、そういうことじゃ。ダークゴブリン1、ゴブリン4じゃ。ほれ、戦うぞ」


 ハッキリ言って、3階層の魔物などもはや私達の敵ではありません。

 メタルスライムだけを狩るのに積極的となっている為に低階層で籠って戦闘を繰り返しているだけで……そろそろ、深い階層で実践訓練を積んだ方が良いかもしれませんね。

 ぶっちゃけ単調作業なのでそろそろ飽きてきました。


 なんで私達はずっと低階層ばかりで魔物を倒しているんでしょうか。訳が分かりません。

 多分特殊個体であってもそれなりに戦える気がします。戦えないとしたら、倫理観の問題ですね。


 

 さて、今回の研修で大活躍中の“魔素放出”。

 今回の研修では琴ちゃん魔法シリーズの代表格である“琴ちゃんキャノン”が封じられているので。大人の事情です。

 畜生、洞窟型じゃなかったら遠慮なくぶっ放してたんですけどね。


 なので今回の研修中には、洞窟型ダンジョンで使える“琴ちゃんキャノン”に代わる楽しい魔法を編み出したいという個人的な目標もあります。


 “ゴブリンショット”もかなり楽しい分類の魔法ではあるんですけど……正直、琴ちゃんからすれば足りないです。

 

 メタルスライムの粘液を持ち帰らせてくれたらもっと遊べるんですけどね。全日本冒険者協会に持ち去られてしまうので。

 銀色に頭頂部が光るゴブリン、すごく楽しかったです。またやりたいです。

 今度はゴブリンの股間に塗りたくって「例の光」とか再現したいんですけどね。ダメですか? ……女の子がやっちゃダメって怒られそうなので、やりませんが。


 そんな胸中のまま、琴ちゃんウェポンを突き出しました。

 イナリちゃんは低く構えた姿勢から、もう一度だけちらりと私に視線を送ります。


「うむ、ひとまず好きに暴れさせてもらうぞ」

「大丈夫ですよ。あ、でも戦闘中に1回だけ実験に付き合ってください」

「また阿呆なこと考えておるわ……」


 イナリちゃんはやれやれ、とため息を吐きながらも戦闘態勢を取りました。

 と言っても彼女の構えはシンプルなものですね。

 だらりと小太刀を地に向けて垂らし、自然体を作って立つ。


 イナリちゃんの怖いところは警戒することが出来ない、というところです。

 無警戒で相手して……気づいた時には彼女の空気に呑まれ、手遅れになる。そんな恐ろしい能力を持ち合わせているからこそ、彼女は低レベル・低ステータスであっても難なく戦闘に参加できたんですね。

 

 それだけの実力を持っているからこそ、私だって安心して彼女に任せられるという訳ですよ。


 という訳で私の好奇心に付き合ってください。

 “狐火”ですか? 面白そうな固有スキルを会得したじゃないですかっ。


 固有スキル。ロマンありますよね。

 ただ記録する時にすごくめんどくさそうだなーという気はしていますが。


 冒険者の記録——通称“冒険の書”について記録する際には、私達だけが分かっても意味が無いんですよね。どのような冒険者が見ても、皆が等しく理解できる内容に記載しないといけません。

 なので、固有スキルゲットだぜ、やったー! ……というだけで解決しないのが面倒なところですね。

 ん? 琴ちゃん魔法? んふふ。琴ちゃんは都合の悪いことからは目を逸らすという固有スキルを持っているんですよ。

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