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第172話 好奇心の餌

「えーっと……田中 琴男さん?」

「うんっ」

「あっ琴ちゃんじゃなくってね。本体の方」

「本体の方……あー」


 別室で待っていたらしい、全日本冒険者協会の職員である花宮 麻衣ちゃんが困惑した表情を浮かべながら入ってきました。

 交互に私と琴男を見比べては、不思議そうに顎に人差し指を沿わせました。可愛いんですけど、中学校の教科書に掲載されるイラストでしか見たことのない仕草ですね。


「よう、久しぶりだな。花宮」

「……えっと、久しぶり、ですか?」


 琴男はまるで友人と再会したかのように、気さくに手を上げてきました。

 ですが反応に困った麻衣ちゃんは、私の方をチラリと見てきます。


 まあ、久しぶりの再会と言うには既に私と出会っていますからね。状況的には非常にシュールです。

 誰がこんな状況、説明できるんでしょうか。私も無理です。当事者の私が出来なかったら誰も出来ないと思います。

 

「……ごめん、麻衣ちゃん。お兄ちゃんは雑魚狩りでいるだけ」

「ややこしい状況を増やさないで?」

「えっ」

「お兄ちゃんではないでしょ……」


 麻衣ちゃんはそうバッサリと私の言葉を切り捨ててきました。

 何でですかっ。私の何が悪いと言うんですかっ。

 ただ「状況的には兄妹みたいな感じだよなー」って思ったから、面白がって琴男をお兄ちゃん呼ばわりしていると言うだけなのに!

 

 誰一人として、簡単に説明することが出来ない人達で揃っているのが面白いですね。琴ちゃんは混沌が好きなので満足です。

 

 

 

 さて、改めて思い出してみましょう。

 魔法使い研修の際にお世話になった会場では、いかにも全日本冒険者協会で開催される由緒正しい研修という雰囲気が出ていました。

 純白の壁面で囲われた、どちらかというと講堂のような雰囲気を醸し出した、お金が掛かっていますよって雰囲気をしてましたね。お金の話はタブーか。えへへ。

 

 ですが今回の研修会場は地味です。いかにも「残った施設をそのまま使わせて貰いました」感のある施設です。

 こぢんまりとした環境です。なんというか、冒険者の世界と言うにはあまりにも古ぼけています。


 山奥に人知れず存在するようなみすぼらしいダンジョンなので、黎明期でさえロクに人が来なかったのでしょうね。というか存在があまり認知されなかったのでしょう。

 人知れず存在するダンジョンだったのが、全国のダンジョン調査の中で価値あるダンジョンであると発覚した……そう言う経緯でしょうか。


 この施設だって、本来は何かしらの旅館だったはずです。ですが、ダンジョンが近くにあるという時点で、黎明期の一般市民からすればどう捉えても災厄の象徴でしかありません。

 全国にダンジョンが形成される異災の時点で、50,000を超える人が亡くなっているんですよ。とんでもない大災害です。

 そんな災害の象徴が、この施設の真横に存在する……という時点で、のんびり過ごせるはずが無いですよね。当時の私ならムカついて気が気じゃ無かったと思います。

 

 ここの所有者であった人が、明確な損失となると考えた上で、全日本冒険者協会に施設を明け渡したのでしょう。どれくらいの値段で取り引きされたかは分からないですが、とんだ不幸に巻き込まれたものですね。気の毒です。

 

 なので、ここには講堂なんて大それた場所はありません。

 あるのは大広場の和室くらいのものです。

 長方形の机と、それを囲うように配置された座布団だけです。壁際にはせんべい布団が重なっています。


 道中には明らかに「それだけ買い換えただろ」と言わんばかりに、場違いな最新式のドラム式洗濯機が配置されていました。小銭でも動きますが、どうやらQR決済でも通用するみたいです。維持費かさみそう。

 色々と思うところはありますが、琴ちゃんはツッコみません。オンボロな洗濯機じゃないだけマシです。



 そんな年季を感じさせる。時代の中で放置された痕跡の残る研修会場。

 麻衣ちゃんは座敷卓の真ん中辺りに座り、それから私達の姿を忙しなく見渡していきます。


 ……実年齢を意識してはいけない人達が揃いました。考えてはいけません。賢い私達はそれに触れないのが掟です。


 麻衣ちゃんは事前に受け取った、研修に参加する人達の名簿を確認しています。しなくても良いんですけど、一応。


 

「えーっと、まずは田中 琴ちゃん」

「はいっ」


 まずは私ですね。ちらりと見えた名簿リストには、16歳・女と書かれていました。何もかもが事実と違います。

 もはや説明不要。琴ちゃんです。

 

 ……「説明できないだけだろ」とか言うのはナシですよ。琴ちゃんは打たれ弱いんです。

 

「次に、田中 恵那斗さん」

「ええ」


 次に視線を移したのは、私の隣で律儀に正座をしている恵那斗です。

 名簿には18歳・男と書かれていました。戸籍上では年上彼氏です。一応、外向けには「幼馴染みのお兄ちゃんと付き合い始めた学生カップル」という風に説明しています。最近、どこでボロが出るか分からないので恵那斗と相談して、体裁も整えました。

 昔ながらの付き合いという解釈なら何一つ嘘は吐いていません。


「……戸籍が無いけど、イナリちゃん」

「ぬぅ……」


 それから、明らかに元気が無さそうに項垂れているイナリちゃんに視線を向けます。

 人間としての判定が微妙な狐っ娘であるイナリちゃんには、戸籍が与えられませんでした。冒険者登録の際に、手続きの側面から面倒が起きたみたいですが……私はそこについては説明しません。というか出来ません。

 ちゃんと給料は与えられているので、ひとまずは許されています。イナリちゃんは色々と特殊例です。


 狐耳と尻尾が萎れちゃっていますが。今日も今日とて可愛いです。


 一応イナリちゃんは、10歳・女という形には登録されています。まあ、外見は子供ですもんね。

 一時期「誰が10歳じゃ!儂は64年間金山 米治という名前で生きてきた……」などと駄々をこねていましたが。ジュースをあげたら大人しくなりました。子供です。

 


 そして、最後に一番触れなければいけない人物です。


「……えっと、田中 琴男さん」

「おう」


 琴男だけは支柱にもたれ掛かる形で、腕を組んで立っていました。やめようね中二病。そんな意味ありげなポーズで立たない、ほら座った座った。

 一応、私の元肉体ではあります。ですけど中身が真人間に寄っているので、もはや別人です。これを私だとは認めていません。


 琴男だけは正式に私の戸籍を引き継いでいるので、47歳・男と書かれています。

 ですけど、外見上の見た目が16歳の姿をしています。なので、ややこしくない要素を探す方が大変です。



 ちなみに、名簿には職員の名簿として麻衣ちゃんの名前も載っています。

 「花宮 麻衣」という名前は見えました。ですけど、年齢の部分は手で隠しているので見えません。ううん、抜かりないです。

 見た目は私よりも若干年上の可愛らしい女の子にしか見えません。ですけど、実年齢は……。


「……」

「ひっ」


 あの、やめませんか。殺気をはらんだ目でこっちを見るの。

 イナリちゃんもそうですけど、殺気を解き放つという技能を雑に扱いすぎです。琴ちゃん抑制装置みたいな使い方をするのは止めましょう。


 それから、麻衣ちゃんは資料を捲り、”レベルアップ研修のすゝめ”という資料を開きました。

 私達は全員歴戦の冒険者なので、説明は不要ですが……一応、形式上と言った形ですね。万が一、認識のずれがあってはいけないので。


 ちなみに名簿リストはしっかりと資料の一番下に隠されていました。徹底的に見せてはいけないところを隠すスタンス、嫌いじゃないですよ。

 

「……改めて説明します。今回皆さんに参加してもらうのは”レベルアップ研修”です」

「デスゲームの司会みたい」

「……琴男さん、琴ちゃんを黙らせておいてください」


 会話の合間で茶々を入れたはいいんですけど、麻衣ちゃんはそんなことを言ってきました。あの?

 そしてステータスによって身体能力が強化された琴男が背後に回り込んだかと思うと、瞬く間に羽交い絞めにされました。


「ほら、琴。大人しくしてろ」

「むきゅぅ……!」


 うう。さすがにステータスを加算されると私は何も出来ません。

 というか、浮いちゃってるんですけど。私、両足とも地面についてないですよ。


「お兄ちゃん、離してっ」

「おわっ、危ないな」


 じたばたと両足を泳がせて抵抗してみますが、琴男は腰を引かせて回避してきました。くそっ、琴ちゃんキックを警戒してやがる。

 

「セクハラするー!お兄ちゃんの変態ー!」

「おい人聞き悪いぞ47歳男性」

「きゅぅ……」


 ムカついたので、見た目要素を存分に悪用して琴男目掛けて悪口を言ってみたのですが、容赦ないカウンターの前に敗北しました。

 結局ゴブリンダミーの如く磔になった私に、琴男は苦笑を漏らしながら話しかけてきます。


「俺さ、三上から頼まれてんだ。“俺の代わりに琴を見張れ、アイツは目を離すとロクなことにならない”ってさ」

「私、大人しくしてるよ?」

「散々話を聞かされてるからな。諦めろ論外女」

「ろんっ……」


 だぁーーーーれが論外女ですか!怒るぞ!琴ちゃん怒るぞ!!ダンジョンの出入り口目掛けて“琴ちゃんキャノン”ぶっぱするぞ!!

 

 ……と言いたいところなんですけど。“琴ちゃんキャノン”は洞窟内だと使えないんですよね。洞窟内の酸素が消耗しちゃうので。

 “大気遮断”を使って、“炎弾”の余波を抑えれば使えないことはないんですけど……それだと琴ちゃんが楽しくないです。


 “琴ちゃんキャノン”の魅力はただぶっ放して全てを破壊することではありません。

 崩壊の余波までしっかりと堪能してこその“琴ちゃんキャノン”です。それが堪能できない時点で、やる気が上がりません。楽しくありません。はっきり言ってゴミです、ゴミ。


 比較的安全な“琴ちゃんレーザー”なら使えるんですけど……なんだか映えないんですよね。あまりにも実用的すぎるので、面白くない魔法です。“琴ちゃん魔法シリーズ”で言えば、ロマンに欠けるのでハズレ枠です。

 

 そんな私の「楽しくない」オーラがひしひしと出ていたのでしょうか。

 琴男は私を下ろした後、ニヤリと微笑みました。なんですか、にやけちゃって。気持ち悪いな。


「琴、お前が“レベルアップ研修”を頑張れそうな言葉を与えてやるよ」

「なに、お兄ちゃん。そんな人を餌で釣るみたいな」

「そうじゃないとやる気にならないだろお前」

「ぶーっ」

「拗ねるな」


 お兄さん面してくるのがムカつきます。私のやる気が出るポイントを把握しているからこそムカつくんですよ琴男は!

 畜生、こんなのが同一人物なのが許せん。

 

 

 ゆあちーは絶対にやらんぞ。

 私、すごく複雑な心境なんですからね!?シチュエーションだけで言えば昼ドラです。

 なんですか「妻を失った47歳男性に恋する16歳現役女子高校生」って。文面が嫌すぎます。


 ですが現状ではゆあちーに何も言えていません。知らないふりに徹しています。琴ちゃんは賢いんです。

 私は恵那斗の好意に気付かなかったレベルですごく鈍いので、琴男のことは悪い意味で信頼しています。


 

 そんな琴男は私と、それから恵那斗、イナリちゃんへと順に視線を送りました。

 

 次の瞬間、私に好奇心の餌が置かれました。


「呪い三人衆。お前らはそれぞれ、メタトロン、ワーウルフ、白狐の身体を宿している」

「ん?それが何?」

「レベルを上げるということはな、それだけ“ダンジョンに適応した身体になっていく”ということでもある。そして、ダンジョンとは異世界の産物だ」

「うん。それでそれで」

「お前らの身体は、そんな異世界の産物から成り立つものだ。だが、まだ完全にその力を使いこなせていない」

「……ほう」


 ふむ!! ちょっと面白そうな前振り来ましたね!!

 出ました、来ました。


 「まだその力を使いこなせていない」という前口上!


 琴ちゃんはこういうのが大好物なんですよ。ロマンありますよね、次のステップが存在するって!!


「琴。連想力に長けたお前ならその答えに辿り着けるだろ。レベルを上げることは、つまり何に繋がる?」


 最後に、琴男はそう質問を投げかけてくれました。

 良いですねっ、最後にそのレベルを上げた「先」を言わせてくれるの。分かります、分かりますよっ。

 ロマンの極致じゃないですかっ。


 異世界から明け渡されたこのメタトロンの身体。それに大きな意味が宿るんですよ。

 火力云々ではありません。新たな可能性、それ自体にロマンが宿るんですよ!!


 という訳で右手を突き上げて、嬉々として琴男の問いかけた「先」について叫びます。


「この“異世界の身体”に秘められた、本来の力を発揮できるっ!!」

「……な? 好奇心の餌だろ?」


 琴男は私を指差して「これが答えだ」みたいな顔をしてきました。

 不本意な扱いではありますが、正直言うとロマンを隠しきれないので今回ばかりは琴男に乗せられておきましょう!!


 このメタトロンに秘められた真の力に少しでも近づけるというのなら、ちょっとくらい面倒でもレベルを上げる価値があるというものですよっ!!

 最大限にこの身体の力を発揮できるよう、しっかりとレベリングを行うとしましょうっ!!

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