お化け屋敷の中で7
梨郷は眉を寄せた。
「確かにお化け屋敷のスタッフさんだからできそうだけど」
「できそうじゃなくてやったんだよ。市ヶ谷憲二は相野さんとグルだ。ついでに相野さんは永友さんや大賀さんともグルなんだろう」
「……はあ?」
「後、男勢な。あいつらも全員市ヶ谷憲二とグルだ」
「ちょっと、どういうことなの」
「正直動機はまったくわからないけど、全体の流れとあいつらの行動はこうだ。まず、市ヶ谷憲二は大賀いづみの前で消えなければならなかった」
「消えたいってどういうことよ……」
「さあ、人間関係のトラブルじゃないか。付き合ってたんだから別れ話とかな。で、市ヶ谷憲二はスタッフの赤城さん含む男勢とその計画を立てたんだ。それぞれの関係性は大学のOBとか同級生先輩後輩辺りだろ」
「んー。それで?」
もやもやしてるんだろう。話してる僕が一番感じてるよ。
「幽霊、つまり相野さんに連れ去られたようにお化け屋敷内で消えるのが当初の目的だったんだと思う。ただ、大賀いづみが思いの外取り乱して、事が少し大きくなった。ていうか、連れ去った犯人は外で並んでた僕らの中にいるとかわけのわからないことを言い出しただろ? つまり、大賀いづみは男勢の計画を知ってたんだ」
市ヶ谷憲二は大賀いづみの前から消えることによって、なんらかのメリットを得ようとしていた。だけど、彼女には気づかれていて、対抗策を取られてしまったのだ。
そこまで梨郷に話し、とりあえず結論を出す。
「その男勢の計画に対抗しようとして大賀いづみが協力を求めたのが、相野さんと永友さん。ただ、相野さんは市ヶ谷憲二とこっそり繋がっていたから、電話が来た時に永友さんが嫌そうな顔をしたんだ。ちなみにお化け屋敷スタッフの二人が市ヶ谷憲二とグルだから逃がすのは簡単だろう」
人がいなくなるまで隠れさせておけばいいのだから。お化けの仮装させるとか、スタッフの服を着せるとかな。
「どうして、そんなことしたの……? ていうか何が目的?」
僕は肩をすくめた。
「知るわけないだろ? 身内の茶番に付き合わされたってことだ。ほら、もういいだろ。さっさと行け」
「うー……」
梨郷はしばらく唸っていたが、十二時十五分を過ぎていたので、諦めて走って行った。
「まったく」
「ねえ、それ他の人に喋ったら絞めるよ」
女の低い声が聞こえて来て慌てて振り返った。
「っ」
僕に鋭い視線を向けていたのは……大賀いづみだった。
「え……」
「これ以上探られちゃあ堪んないから教えてやるわ」
大賀いづみは僕の額の真ん中に人差し指を置いた。なんだこれ、動けない?
「憲二はね、あの相野ってやつと浮気してんのよ。その関係を続けた挙句、別れたいとか言いだした。殺してやろうかと思ったわ」
文字通り、殺意がにじみ出ていた。いや、控えめに言って怖い。
「諦めないと分かると、妙な計画を立てて、あたしの前からいなくなろうとしたのよ」
幽霊に連れ去られた……そんなわけのわからない事情で警察が動くわけないし、そもそも失踪届って他人に出せるのか怪しい。なるほど、駆け落ちみたいな感じか。
この人はヤンデレっぽいな。
「相野だとはっきり分からなかったから、炙り出す目的もあったんだけど、当たりだったわ。これが今回の騒動の動機。あんた、名前は?」
額から指を離した大賀いづみに問われる。いや、答えたくないけど、この状況は……。
「茅部です」
そこで舌打ち。
「下」
「尚です」
「良い? 他言無用よ。さっさと消えなさい」
「……はい」
有無を言わせない威圧に、返事をすることしかできなかった。
これはダメだ……。あの人、ヤバい。
僕は急いで、会場へと戻ることにした。
……梨郷のライブでも見て行くかな。




