表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
りんごの怪談記録メモ~怪談話の謎を解け!~  作者: たかしろひと
第2章
44/91

喫茶エコールの忘れ物3

 僕は突然戻って来た男性に対し、目を瞬かせた。梨郷も不意を突かれ、固まっている。


「2879?」


 僕は思わず聞き返してしまった。


「その、スマホの暗証番号だよ。入力してみろ」


「あ、はい」


 僕は再びスマホへ視線を落とす。

 彼のいう四桁の数字をゆっくりと、タップした。

 すると、


「あっ、開いた!」


 梨郷が声をあげる。鍵が開く時のような音がして、入力画面から通常の待ち受け画面になっていた。

 てことは、やっぱりこの客のじゃないか。


「お客様、お返ししますね」


 聞くまでもない。彼が持ち主なのだろう。


「……いらない」


 スマホを差し出した僕は彼の言葉に眉を寄せた。


「はい?」


「お前が処分しとけよっ。俺はそんなの知らないっ」


 男はそう言い残すと、入り口のドアまで走り、振り返ることなく店を出て行った。

えー……。なんだよ、あれ。


「よくわからないけど、これはあの人のなのよね?」


「うーん」


 処分しとけってどういうことだ。


「ねえ、どうするのよ?」


「どうするって」


 僕は失礼ながら、スマホを操作して着信履歴の画面を開いた。そこに表示されたのは『けいちゃん♡』のみだった。

 他の履歴なし?

 仕方ないので、やはりけいちゃんにかけるしかないようだ。念のため、アドレス帳を開く。自宅の固定電話の番号なんかを登録していれば……と思ったのだが、アドレス帳すらけいちゃんのみだった。


「これは」


「ねえ、ねえ、私も聞きたいわ。声が大きくなるやつやって!」


 僕のエプロンを引っ張ってくる梨郷の要求をのんで、スピーカーモードでけいちゃんへかける。

 呼び出し音がして、すぐに先ほどの女性が出たのだが、


『やっとかけてくれたああああっ、もお、遅いよぉ。ねえ、ねえ、どう? 私のデコ。可愛いでしょ! お揃いだよー?』


 ハイテンションな女性の声が聞こえてきた。これはさっきのけいちゃん、なのか?


「なんとか言ってよお。いっつも喋らないんだからぁ。ほんとに照れ屋さんだよねぇ」


 彼氏相手だとこうも違うものか。


とりあえず、彼氏じゃないことを伝えるか。

 僕が口を開いた時である。


「今日、家に行くね! この前は五時間も待っちゃったんだよー? 鍵開けてくれれば良いのにぃ」


 五時間? 鍵?

 梨郷も不思議そうに画面を見つめている。


「ねぇ、尚、これって」


 僕はとっさに人差し指を立てた。口元に持っていく。つまりは静かにしてろ、と。

 しかし、スピーカー状態だったので聞かれてしまったらしい。


「……ねぇ、女の声しなかった? 誰? ねぇ、誰?」


 女性の声の感じが変わった。


「せっかく他のやつらの連絡先消したのに、女と会ってるの? なんで? わたしがいるのに?」


 低い声で問い詰められ、僕は通話終了ボタンを静かにタップした。

 いつの間にか冷や汗が浮かんでいた。

 単に彼氏に甘える彼女ではない気がする。もっと狂気的なものを感じる。


「なんか、怖い」


  梨郷もけいちゃんの異常さを感じているらしい。

 しかし、すぐに着信音が鳴り始めた。発信者はもちろん『けいちゃん』である。


「ど、どうするのよ」


「落とし物として警察にでも届けるか。勝手に処分出来ないだろ」


 僕は着信音がなっている状態でも気にせず、そのままスマホの電源を落とし、その日のうちに交番へ届けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ