第13話 Series A Pitch(1億ゴールドの賭け)
生存デッドラインまで、残り5日。
オフィスの魔導スクリーンに表示された手元資金は、ついに【420,000 GOLD】まで減少していた。銀行口座は凍結されたまま、闇質屋への金利と毎日の配送ボーナスで、キャッシュは完全に限界寸前。
だが、創真の目はかつてないほど鋭く、そして冷静だった。
【氷華(CFO)】
「(膨大なデータが刻まれた羊皮紙を整理しながら)アポイントメントは取り付けたわ。相手は王都最大の最高意思決定機関『大商業議会』。席につくのは、商業ギルドの総裁を含めた、この国の経済を支配する5人の大物たちよ」
【レイ(CTO)】
「……ピッチデッキ(提案書)の魔導投影準備、完了。……王都の物流シェア28%をハックした実績、コスト3分の1削減のファクト、すべて24個のクリスタルにパッケージングした」
【創真(CEO)】
「よし。200万から始まったこの戦い、ここで一気に1億ゴールド(約1億円)の価値(時価総額)を認めさせて、シリーズAをクローズする。……行くぞ」
王都の中心にそびえ立つ、大理石造りの大議事堂。
重厚な円卓の奥には、商業ギルド総裁バルトロメウスをはじめ、冷徹な目をした巨頭たちが並んでいた。部屋の隅には、オブザーバーとして冷めたハーブティーを持つ御堂の姿もある。
【バルトロメウス】
「中央銀行の口座を凍結され、干からびたネクサスフラットが何の用だ? 命乞いなら、今のうちに配送網の権利をギルドへ無償譲渡するサインをすることだな」
議場に嘲笑が響く。だが、創真は円卓の中央に進み出ると、不敵に笑って言い放った。
【創真(CEO)】
「命乞い? 勘違いしないでください。今日はあんたたちに、我が社の『シリーズA・第三者割当増資』への参加権を売りに来たんですよ。条件は、時価総額1億ゴールド。出資希望額は2,500万ゴールドだ」
「なっ……ハハハハハ!」
巨頭の一人が激しく机を叩いて笑った。
【議会幹部】
「身の程を知れ、無登録の配送屋が! 資本金5万から始めたガキの会社に、1億ゴールドの価値などあるわけがないだろう!」
【創真(CEO)】
「――あるかないか、今から現実を見せてやる。レイ、ダッシュボードを展開しろ!」
レイが指を弾いた瞬間、議事堂の空間全体に、王都のリアルタイム物流網が3Dホログラムで爆発するように広がった。
数千、数万の光の点が、網の目のように路地裏を、スラムを、商業区を駆け巡っている。
【創真(CEO)】
「これを見ろ! あんたたちが15年間放置し、あぐらをかいていた古い馬車物流の裏で、俺たちはわずか数日で『1日3,200件』の配送をマッチングさせた! 商業ギルドの手数料40%に対し、俺たちは10%。配送速度は3倍。これによって、これまで物流から切り捨てられていた下層の商人や一般市民が、一斉に経済活動を始めている!」
創真はバルトロメウスを指差した。
【創真(CEO)】
「あんたたちが口座を凍結しようが、法律で縛ろうが、民衆はもうネクサスフラットの便利さ(インフラ)を手放さない! 凍結された口座の裏で、俺たちは闇市場からキャッシュを引いて回り、1秒も足を止めなかった。この『圧倒的な成長速度』と『どんな逆境でも死なない実行力』。これを持つチームに、1億の価値がつかないわけがないだろう!!」
堂々たるピッチ(提案)。議場は水を打ったように静まり返った。
だが、バルトロメウスは冷酷な笑みを崩さない。
【バルトロメウス】
「……素晴らしい演説だ、神崎くん。だが、ビジネスは数字だ。お前たちがいくらシェアを広げようと、我々商業ギルドが『全面的な価格競争(資本の力)』を仕掛け、手数料を一時的に0%にしたらどうなる? 資金の尽きかけたお前たちは、1週間と持たずに干からびて破産だ。我々には、お前たちをいつでも圧殺できる『資本の壁』がある」
既存権益による、容赦のない資本の暴力。
隣で聞いていた氷華が、悔しさに唇を噛む。確かに、ギルドが赤字覚悟の体力勝負を仕掛けてくれば、ランウェイ(生存期間)が数日しかないネクサスフラットに勝ち目はない。
巨頭たちが、勝利を確信して創真を見下ろす。
しかし、創真は――さらに深く、狂おしいほどに笑った。
【創真(CEO)
「バルトロメウスさん。あんた、本当に優秀なビジネスマンだけど、一つだけスタートアップの戦い方を分かってない」
【バルトロメウス】
「何……?」
【創真(CEO)】
「あんたたちが手数料を0%にして俺たちを潰しにくる、その『防衛戦線』のコスト。王都全域でそれをやれば、ギルドは1日あたり最低でも500万ゴールドの赤字を垂れ流すことになる。違いますか、氷華?」
【氷華(CFO)】
「(即座に計算し、鋭く微笑む)ええ。ギルドの規模なら、3日で1,500万ゴールドの損失ね」
【創真(CEO)】
「そう。そして、その『ギルドが血を流す未来』を予見した瞬間、この国の他の投資家たちがどう動くか。……御堂先輩、出番です」
部屋の隅でハーブティーを置いて立ち上がった御堂が、自らの魔導水晶を掲げた。
【御堂】
「大商業議会の諸君。私はネクサスフラットの筆頭エンジェル投資家として、本日、彼らのシリーズAに対し、バリュエーション1億ゴールドの条件で、追加の2,500万ゴールドの投資枠(リード投資家)を引き受けることを正式に表明する」
議場に激震が走った。
【バルトロメウス】
「御堂、正気か!? 潰れるのが分かっている泥船に、さらに2,500万をドブに捨てるというのか!」
【御堂】
「ドブだと? 違うな。神崎くんは、お前たちが『ネクサスフラットを潰すために流さなければならない血の量』を正確に計算し、それをヘッジするための資金を私から引き出したのだ。この2,500万ゴールドがあれば、ネクサスフラットはギルドの価格競争を完全に耐え抜く。……血を流しすぎて先に倒れるのは、肥大化したお前たちギルドの側だ」
圧倒的なゲームチェンジ。
創真のピッチは、議会を説得するためではなく、御堂という「最強のリード投資家」のトリガーを引き、議会を逆に「今ここで投資しなければ、将来的にネクサスフラットに市場を奪われて滅びる」という恐怖(FOMO)のどん底に突き落とすための罠だったのだ。
創真は円卓に両手をつき、5人の巨頭を睨みつけた。
【創真(CEO)】
「さあ、選択の時だ。ギルドの意地のために数千万の血を流して俺たちと共倒れするか。それとも、時価総額1億ゴールドのネクサスフラットの株を今すぐ買い、次の時代の『物流の支配者』の席に座るか。――どっちだ?」
(第13話・了)
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【生存デッドライン:残り5日】
・ステージ:シリーズA交渉大詰め
・リード投資家:御堂紫臣(25,000,000 Gold出資表明)
・ステータス:商業ギルド、究極の二者択一へ
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