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勇者の召喚と魔王討伐の時代は終わった。CEOの俺が女神から課された試練は異世界創業だった ~だけど世界の全ては“魔王”に繋がっていた~  作者: スアップ
1章

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第12話 Cash-Out Crisis(黒字倒産の罠)

「……支払いが、できない?」


レイの言葉に、オフィスの空気が一瞬で凍りついた。

画面に表示された【ACCOUNT FROZEN(口座凍結)】の赤い文字が、不気味に明滅している。


【氷華(CFO)】

「(震える手で水晶板を操作しながら)商業ギルドが中央銀行の筆頭株主であることを忘れていたわ……。『テロ資金供与の疑い』という名目での調査……完全にこじつけだけど、解除には最低でも2週間はかかる。でも、私たちの支払期限デッドラインは……」


【レイ(CTO)】

「……明日の朝。……1,000人の運び屋たちへのインセンティブ、合計800万ゴールド。……これが払えなければ、彼らは二度と動かない」


ネクサスフラットは今、王都で最も荷物を運び、最も稼いでいる。だが、その利益はすべて「凍結された口座」の中。

手元にあるのは、わずかな小銭のみ。

典型的な「黒字倒産キャッシュアウト」のシナリオだ。


【創真(CEO)】

「(静かに立ち上がり、窓の外を見下ろす)……商業ギルド、えげつない真似を。法で勝てなきゃ、次は物理的に血流を止めるか」


拠点の外には、明日の報酬を信じて、深夜にもかかわらず配送を続ける運び屋たちの影が見える。彼らを裏切れば、この数日間で築き上げた信頼クレジットは一瞬で灰になる。


【氷華(CFO)】

「創真、こうなったら御堂さんに……」


【創真(CEO)】

「ダメだ。御堂先輩は『生存デッドラインまでにシリーズAを決めろ』と言った。この窮地を先輩の追加投資で乗り切るのは、起業家としての敗北だ。それに、御堂先輩の資金も同じ銀行を通っている以上、連鎖的に止められるリスクがある」


夜明けまで、残り6時間。

銀行が開くのを待っても無駄だ。窓口はギルドの役人によって封鎖されているだろう。

創真は深く息を吐き、レイと氷華に向き直った。


【創真(CEO)】

「レイ、プラットフォームの『即時決済機能』を今すぐ切り離せ。氷華、この街で一番古い『価値の保存先』に連絡するぞ」


【氷華(CFO)】

「……まさか、あの場所へ行く気?」


深夜2時。王都の裏通りにある、一見何の変哲もないアンティークショップ。

だが、その地下には、商業ギルドの法すら届かない『闇の質屋アングラ・バンク』が存在していた。


店主は、シワだらけの顔に不気味な笑みを浮かべた老女だった。


【店主】

「ククク、今をときめくネクサスフラットのCEO様が、こんな掃き溜めに何の用だい? 銀行にたっぷり2,000万ゴールド持ってるんだろう?」


【創真(CEO)】

「話は早いな。銀行の数字じゃなく、今すぐ動かせる『現物の金貨キャッシュ』が800万ゴールド欲しい。今夜中にだ」


店主は煙管をふかし、細い目で創真を値踏みした。


【店主】

「800万……。担保は何だい? あんたたちのボロオフィスか、それともその怪しい水晶板かい?」


【創真(CEO)】

「(デスクに一枚の書類を叩きつける)――ネクサスフラットの『将来の売掛債権ファクタリング』だ。今日一日で確定した3,000件の配送利益、さらに今後1週間の予測収益の全権利を、あんたに譲渡する」


【氷華(CFO)】

「(横から割り込み)ただし、手数料として収益の5%を差し引く。その代わり、今この瞬間に現物で800万ゴールドを用意して。……これが、王都で最も成長しているインフラの『未来』を、一番安く買える最後のチャンスよ」


店主の手が止まった。

銀行の凍結を知りながら、あえて「未来の収益」を担保にする。もし会社が明日潰れれば、この書類はただの紙屑だ。だが、もしネクサスフラットが生き残れば、莫大な利息が転がり込む。


【店主】

「……狂ってるね。でも、その狂気、嫌いじゃないよ」


バチン! と店主が指を鳴らす。

奥の金庫から、ずっしりと重い皮袋が次々と運ばれてきた。

純金2,000万ゴールドの信用を背景に、闇市場から「800万の血液」を無理やり引き出したのだ。


翌朝。

朝靄の中、拠点の前に集まった1,000人の運び屋たちは、殺気立っていた。

「金が払われない」という噂が、商業ギルドの工作員によって流されていたからだ。


「おい! 本当に金はあるんだろうな!」

「嘘だったら、そのオフィスをぶち壊して荷物を奪わせてもらうぞ!」


怒号が飛び交う中、創真がゆっくりと前に出た。

その脇には、山積みになった皮袋。


【創真(CEO)】

「――全員、黙ってこれを受け取れ。ネクサスフラットが、約束を破ったことは一度でもあるか?」


皮袋が投げ開かれ、朝日に照らされた金貨が地面に溢れ出す。

その圧倒的な「現金の輝き」に、荒くれ者たちは息を呑み、静まり返った。


一人一人に報酬が手渡されていく。

信頼が失われるどころか、この絶望的な状況で現金を揃えたネクサスフラットの「底力」に、運び屋たちの忠誠心はこれまでにないほど強固なものとなった。

その光景を遠くから苦々しく見つめるバルトロメウスの傍らで、通信水晶が鳴った。


【御堂(通信)】

「(笑いを堪えきれない声で)……バルトロメウス、言ったはずだ。あいつらの狂気にベットした、とな。銀行を止めた程度で、スタートアップの心臓が止まると思ったか?」


オフィスに戻った創真たちは、ボロボロになりながらも笑っていた。

だが、氷華がダッシュボードの端に表示された「ある数字」を見て、真顔に戻る。


【氷華(CFO)】

「創真……、闇の質屋から借りた金の金利と、キャンペーンのバーンレートで、手元のキャッシュが……」


【レイ(CTO)】

「……残り、48時間分。……銀行の凍結が解ける前に、軍資金が底をつく」


【創真(CEO)】

「ああ。……いよいよ、最後の戦い(ピッチ)だ。シリーズA。……目標、バリュエーション1億ゴールドでの調達。……この街の『王』を、俺たちのテーブルに引きずり出すぞ」


生存デッドラインまで、残り6日。

敵は商業ギルドだけではない。王都を支配する巨大資本そのものとの交渉が始まる。


(第12話・了)


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【現在のネクサスフラット・ステータス】

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・手元資金:12,400,000 Gold(口座凍結により使用不可:実質0)

・現在のトラクション:3,010 件 / 日(王都最大の配送量)

・生存デッドライン:残り7日

・次なる絶望:明日までに現金を用意できなければ「黒字倒産」

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