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転生監督の異世界興行録 ~奴隷市場で拾った役者たちを舞台に上げたら、王国中が客席になった~  作者:


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33/35

第33話:エーリカの仕事

 エーリカが加わって二週間が経った。


 仕事が早かった。


 公演の宣伝。会場との交渉。観客への案内。終演後の整理。


 それだけではなく、各地に出ている申告制の模倣劇団との窓口も引き受けた。


 申告が来るたびに確認して、問題があれば報告して、問題がなければ許可を出した。


 ハインリヒが「有能だな」と言った。


 「認めるんだ」と俺は言った。


 「認めたくはないが、事実だから認める」とハインリヒ。


 エーリカは横で「ありがとうございます!!」。


 ハインリヒが「大声を出すな」と言った。


 問題は十七日目に来た。


―――


 報告はエーリカから来た。


「コピー劇の件で、少し厄介なことになっています」


 聞いた。


 申告なしに俺たちの劇を上演している一座が、大きな街で有料興行を打っていた。


 客が入った。金が動いた。その一座の名前が「元監督座」と名乗っていた。


「元監督座?」

「はい。かつて監督の劇団にいた者だと主張しています。ただ、名簿にその名前はありません」

(うそ)だな」

「ほぼ確実に」


 ハインリヒが「権利問題というのはこういうことだ、坊主」と言った。


 帳面を持ちながら「見に行かなければならない」と言った。


「エーリカ、先に行ってくれる? 様子を見てきて」

「私ひとりで?」

「ハインリヒも連れて行って」


 ハインリヒが「俺が行くのか」という顔をした。


 「お願い」と俺は言った。


 ハインリヒが溜め息(ためいき)をついた。帳面に何かを書いた。


―――


 三日後、ハインリヒとエーリカが戻った。


 ハインリヒが報告した。


「一座の代表者と話した。三年前に俺たちの公演を見て感動した、という話は本当だった。その後自分で劇団を作り、俺たちの台本を元に公演を続けてきた。申告制のことは知らなかったと言っている」

「名前は?」

「モーリッツという。三十代の男。元教師だ」

「悪意はあったか」

「……ない。ただ、金が入ったのは事実で、申告なしに名前を使ったのも事実だ」


 俺はエーリカを見た。


「見てどう思った?」


 エーリカがすぐに答えた。


「下手でした。でも、全力でした。あと、台本の使い方が私の時と違いました。自分たちの地元の言葉に全部訳していて、台詞が原版と全然違いました。でもそっちの方が、その街の人に届いていました」

「その違いを、どうやって気づいた?」

「終演後に客と話したら、みんながその台詞を一番覚えていたから」


 俺はパンをかじった。


(この子は見る目がある。ただし作る目じゃない)


「モーリッツを連れてきてくれ。話したい」


 エーリカが「わかりました!」と言って走り出した。


 ハインリヒが「またそういう判断を……」と言いながら胃を押さえた。


―――


 モーリッツが来た。


 人の好さそうな顔だった。(おび)えていた。監督に呼ばれた理由がわかっているから怯えていた。


「謝りたいと思っています。申告の制度を知らなかったとはいえ、名前を勝手に使ったのは――」

「謝らなくていい。それより聞きたいことがある」

「……何でしょう」

「あなたが台本を地元の言葉に訳したのは、最初から考えていた?」


 モーリッツが少し驚いた顔をした。


「いえ……最初にそのまま演じたら、客が言葉の意味を追うのに必死で、話に入れていなかったので」

「何回やった後に気づいた?」

「二回目の公演の後です」

「修正にどのくらいかかった?」

「一晩かけて書き直しました。全部。俺の仲間が三人いて、全員で方言に直して」


 俺は考えた。


「契約の話をしよう」


 モーリッツが「え?」という顔をした。


「うちの申告制の外部一座として登録してほしい。その代わり、台本を地元の言葉に翻案する権限を正式に与える。翻案した版の記録をエーリカに送ってくれ。それだけでいい」

「……金の話は?」

「いらない。翻案した台本が俺のところに来ることで十分だよ」


 モーリッツが「本当に?」という顔をした。


 「本当に」と俺は言った。


 エーリカが横で「監督……」という顔をしていた。


 (うれ)しいのか困惑しているのかわからない顔だった。


「エーリカ、何か言いたいか?」

「監督の劇が……今後どんどん各地に広まっていくんだと思って。それが……嬉しくて」

「だから笑ってほしかった。何の顔してるんだ」

「笑ってます!! 泣きながら笑ってます!!」


 ハインリヒが帳面を見ながら「契約書の雛型(ひながた)を作らなければ」と言った。


「頼む」

「坊主、わかっているか。この先どれだけ管理が増えるか」

「わかってる」

「本当にわかっているか」

「ハインリヒ」

「なんだ」

「こういう仕事が好きだろ」

「好きとは言っていない」


 でも帳面のページをめくる手が、少し速くなっていた。


―――


 夜、エーリカが俺に言った。


「監督。私、今日初めて自分の仕事がわかりました」

「どんな仕事?」

「監督の劇を、届けたい場所に届ける仕事です。作る人と見る人の間を(つな)ぐ仕事」


 俺は聞いた。


「それは何年でもできる?」

「できます。一生でも」

「じゃあ、よろしく」


 エーリカが「はい!!」と言った。大きな声だった。


 ハインリヒが隣の部屋から「うるさい」と言った。


 エーリカが「すみません!!」と大きな声で言った。


 ハインリヒが「それもうるさい」と言った。


 俺はパンをかじりながら、外の夜を見た。


 各地に広まっていく劇の話を、今日聞いた。


 モーリッツが方言に直した台詞が、街の人の口に残っている。


 フィンが「お捻りちょうだいっ!!」と叫んで、どこかの子どもたちが同じ言葉を叫んでいる。


(前世ではこういうことを、夢だけで終わらせていた)


 届いている。ちゃんと届いている。


 届けてくれている人間が、また一人増えた。

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