表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生監督の異世界興行録 ~奴隷市場で拾った役者たちを舞台に上げたら、王国中が客席になった~  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
32/35

第32話:二次創作の扉

 街の小屋で、見知らぬ劇団が公演をしていた。


 ハインリヒから報告を受けた。「うちの台本を使っている劇団が各地に現れている。すでに七箇所で確認された」


 俺はパンをかじりながら「そうか」と言った。


「怒らないのか」

「何が起きているのか見たい。その七箇所の一番近いのはどこ?」

「今いる街の外れに一箇所」

「行く」

「権利の話が先では」

「見てから考える」


 ハインリヒが帳面に何かを書いた。たぶん「今後の法的対応を要検討」と書いたと思う。


―――


 街の外れの小屋だった。


 入口に手書きの看板があった。「革命の子どもたち――監督座の物語を元に」と書いてあった。字が少し曲がっていた。


 中に入った。


 客席は二十人ほど。手作りの椅子が並んでいた。舞台は板が二枚敷いてあるだけだった。照明は普通の蝋燭(ろうそく)だった。


 俺はいちばん後ろの席に座った。


 劇が始まった。


 俺の劇団の革命劇を元にしているが、台詞が全部違った。


 本来の台詞より少し泥臭かった。動きは雑だった。照明は全然足りていなかった。


 主役を演じているのは、二十代前半の若い女だった。


 技術はなかった。台詞の言い方も、動き方も、俺が教えるなら全部直す場所だった。


 でも止まらなかった。


 全力だった。間違えても止まらなかった。


 台詞が出なくなっても止まらなかった。その止まらなさだけが、舞台に張りを作っていた。


(これが、この劇団の核だ)


 終演した。客席から拍手が来た。十五人ほどから来た拍手だった。俺も(たた)いた。


―――


 終演後、若い女が片付けをしていた。俺が近づいた。


「今日の公演、見ました」


 女が振り向いた。俺を見て「子ども?」という顔をした。


「あの台本、元はうちの劇団のものです」


 女の顔が青くなった。


「……あなた、まさか」

「監督です」

「本物の!!」


 女が一歩下がった。ぶつかった。壁にぶつかった。目が泳いでいた。


 名前を聞いた。エーリカといった。二十三歳。


 この街の生まれ。三年前に俺たちの劇を見て、劇団を作ったと言った。


「俺たちの劇の何が好きだった?」

「全部……でも一番は。あの、ジャハルさんが走る場面。『生きたいと思うなら、ここに立て!』のところが」

「見てたんだ」

「三回見ました。それで、自分でもやりたくて」


 俺はエーリカを見た。


「台本を使う前に声をかけてほしかった」

「す、すみません! でもどこに連絡すれば……」

「ハインリヒという男が窓口だよ。今後は連絡して」

「……怒ってないんですか?」

「見てわかった。あなたはこの劇が好きだから、やった。それは悪いことじゃない」


 エーリカが安堵(あんど)したような顔をした。それから「でも私の劇、下手ですよね」という顔をした。言わなかったが、俺に全部見えた。


―――


 ハインリヒに話した。


「全部で七箇所。連絡先を知らせて、今後は事前に申告制にする。無断では演じてはいけないが、申告すれば基本的に許可する」

「金は取らないのか」

「取らない。ただし俺たちの名前を使う場合は、見に行く権利を持つ」


 ハインリヒが計算している顔をした。


「……そこから新しい役者を探す気か」

「わかってるじゃないか」

「胃が痛い」

「でも帳面に書いてる」

「書かないと管理できないからだ!」


 ハインリヒが帳面に申告制のルールを書き始めた。俺はパンをかじりながら、今日見た光景を思い返した。


 エーリカの劇は下手だった。でも何かがあった。


 あの「止まらなさ」だけは本物だった。


(あの子、どこに向かうんだろうな)


―――


 翌日、ベルントが困った顔で来た。「また別の話が来た」と言った。


 聞いた。街の広場で、俺たちの「お姫様劇」の模倣版を子どもたちが自分たちで上演しているという話だった。


 アネリーゼが演じた場面を、十歳以下の子どもたちが衣装も道具もなしに再現していた。


 王子の台詞を少年が言った。王女の台詞を少女が言った。観客は他の子どもたちだった。


「怒るか?」

「うれしい」

「そう思うか」

「俺たちの劇が、子どもたちの間に入った。それより(うれ)しいことはないよ」


 ベルントが「そうか」と言った。目を細めた。


 この男がそういう顔をするのはめったにない。舞台装置の設計図を見ている時か、今日みたいな時か。


 フィンが走ってきた。


「監督! 子どもたちが劇やってる! 俺たちの劇!!」

「見た?」

「見た! 下手だった!! でもやってた!!


 きらきらしてた!!」


「そうだよ」

「俺が教えてくる!!」


 フィンが走って行った。


 俺は「待て」と言ったが止まらなかった。

 

 ハインリヒが「あの子は止まらんな」と言った。


 「そういう子だから」と俺は言った。


―――


 夜、エーリカが訪ねてきた。


「あの。改めて、謝りに来ました」

「もう謝らなくていい」

「それと……お礼を」

「お捻りで十分だよ」

「それと……一つ、お願いがあるんですが」


 エーリカが俺を見た。緊張した顔だった。


「私……あなたの劇のプロデューサーになります。なりたいです」


 俺はエーリカを見た。


「プロデューサー?」

「あなたの劇を、もっと多くの場所に届けたい。私が劇を作る才能がないのは、今日よくわかりました。でも、誰かの劇を広める仕事なら……できるような気がして」


 俺はしばらく考えた。


「今日の公演、いくつ宣伝した?」

「え? 四箇所の掲示板と、市場で声をかけて、あとは街の入口にも……」

「二十人入ったのはなぜ?」

「それは、その……私が毎日声をかけて……」

「プロデューサーの話は、明日ハインリヒとしてくれ」


 エーリカが固まった。「いいんですか」と言った。「いい」と俺は言った。「本当にいいんですか」と言った。「本当にいい」と俺は言った。


「条件がある」

「なんですか!!」

「俺たちの公演に来るたびに、ちゃんとした感想を言ってくれ。下手なところも正直に」

「……それが条件ですか?」

「俺には今、そういう人間が必要だから」


 エーリカが「わかりました」と言った。まだ固まっていたが、その固まり方が少し嬉しそうになった。


 俺はパンをかじった。夜が静かだった。


 扉が開いた。そこから先に進む人間が、また一人増えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ