表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
11/12

第十一章「吹雪の小屋で本音が出すぎた」

 四か所目の遺跡は、山の向こうにあった。

 峠越えは避けられない、とグリムが言った。迂回路はあるが、三日余計にかかる。魔王の復活が早まっている現状、寄り道は極力避けたい。

 全員一致で峠越えを選んだ。

 選んだのだが。

「……吹雪だ」

 山の中腹で、天気が急変した。

 晴れていた空があっという間に曇り、白いものが舞い始め、十分もしないうちに視界が数メートルしか利かなくなった。

「グリム! 小屋とか近くにある!?」

「ある! 百メートルほど先だ! 急げ!」

 全員が走った。

 雪の中を、転びそうになりながら走った。ミルフィが一度転んで、ガルドに抱えられた。レイナは一人で走り続けた。ユーダは顔に当たる雪と、右頬の金属に積もる雪を交互に払いながら走った。

「顔に剣が生えてると雪が積もりやすい!!」

「考慮した設計ではないからな!」とグリムが叫んだ。

「最悪!!」


 小屋は、峠の山小屋だった。

 山を行き来する旅人のための避難小屋らしく、薪と簡単な食料が備蓄されていた。古いが、屋根はしっかりしている。

 全員が駆け込んで、扉を閉めた。

 外で吹雪が唸った。

「……しばらく動けないな」とグリムが言った。

「どのくらい?」

「吹雪の規模からして、半日から一日」

「一日!」

「山の天気は読めない。仕方ない」

 レイナが薪を組んで火をつけた。ガルドが食料の確認をした。ミルフィが濡れた荷物を乾かし始めた。

 ユーダは壁に背をもたれて、右頬の雪を払った。

 狭い小屋に、五人と一精霊。

 しばらくは、ここで過ごすしかない。


 焚き火が安定した頃、全員が落ち着いてきた。

 外の吹雪の音がBGMになって、小屋の中は妙に静かだった。

「……暇だな」とユーダが言った。

「仕方ない」とレイナが言った。

「ミルフィ、本読まないの?」

「濡れてしまって……乾かしています」

「グリムは?」

「精霊は暇を感じない」

「羨ましい」

 ガルドが言った。

「こういうときは話しましょう。お互いのことを」

「話すって、何を?」

「なんでもいいです。旅に出た理由とか」

 全員が少し黙った。

 ユーダが口を開いた。

「俺は……顔から剣を抜きたいから旅してる。それだけ」

「それだけか?」とグリムが言った。

「それだけ」

「本当に?」

「……じいちゃんの遺言が、どういう意味だったか知りたい気持ちもある。でもそれは、旅が終わってから考える」

 沈黙。

 レイナが静かに言った。

「私は……聖剣を見たかった。それが全てだった」

「今も?」

「今も。ただ——」

 レイナが少し間を置いた。

「最初と少し、違うかもしれない」

「何が違う?」

「……聖剣だけを見るために旅していたが、今は」

 レイナはユーダをちらりと見た。

「旅そのものが、嫌いではない」

 ユーダは少し驚いた。

「……それって、俺たちとの旅が嫌いじゃないってこと?」

「解釈はお前に任せる」

「任せないで! 自分で言って!」

「言った」

「言ってない!」

 ミルフィが言った。

「私は……研究のために来ました。最初は本当にそれだけでした」

「今は?」

「今も研究のためです」

「変わってないじゃん」

「ただ」とミルフィが眼鏡を押し上げた。「研究対象が、少し愛おしくなってきました」

「研究対象ってユーダさんのことですよね」とガルドが確認した。

「聖剣と、それを宿すユーダさんのことです」

「愛おしいって言われたのは嬉しいけど、研究対象として愛おしまれてるのが複雑」

「ガルドさんはどうですか?」とミルフィが聞いた。

「私は最初から信仰のためです!」

「それも変わってない」

「ただ皆さんとの旅が楽しくて……こんなに楽しい旅は初めてです。神殿で一人で過ごしていた頃には想像もできませんでした」

 ガルドの目が潤んだ。

「ガルド、泣かないで」

「嬉しくて!」

「また嬉しくて泣いてる!」

 グリムがぼそりと言った。

「……俺は、この旅が終わったら暇になる」

 全員がグリムを見た。

「後始末が終わったら、精霊は本来の場所に戻る。それだけだ」

「……寂しくないの?」とユーダが聞いた。

「精霊は寂しいという感情を持たない」

「本当に?」

「……持たない、はずだ」

「はず?」

「持たない」

「歯切れが悪い」

「持たない!」

 グリムは語気を強めて、窓の外を向いた。

 吹雪が、ごうごうと唸っていた。


 夜になって、吹雪が少し弱まった。

 全員が毛布にくるまって横になっていた。

 ユーダは眠れなくて、天井を見ていた。

 隣でレイナが静かに寝息を立てていた。ミルフィはすでに熟睡していた。ガルドは正座のまま眠っていた。グリムは窓枠で目を閉じていた。

 静かだった。

 じいちゃん。俺、変わってきてる気がする。

 旅に出る前は、ほくろのことしか考えてなかった。コンプレックスで、顔を隠したくて、早く消えてほしかった。

 今は——顔から剣が生えてるのに、なんか前を向いてる。

 変なの。

 ユーダは右頬の金属を触れた。

 暗闇の中で、かすかに光っていた。

 聖なる力が、少しずつ育っている。

 俺も、少しずつ育っているのかもしれない。

 目を閉じた。

 吹雪の音が、子守唄みたいに聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ