第十二章「遺跡に先客がいたので話し合いで解決しようとした」
吹雪は翌朝には収まっていた。
峠を越えると、山の反対側は打って変わって穏やかな気候だった。青い空、暖かい陽光、広がる草原。吹雪が嘘のようだった。
「山ってそういうものだ」とグリムが言った。
「そういうものなの」
「そういうものだ」
「知らなかった」
「村育ちだからな」
「馬鹿にしてる?」
「観察だ」
草原を一時間ほど歩くと、石造りの建造物が見えてきた。
四か所目の遺跡。丘の上に建つ、円形の神殿跡だった。柱が等間隔に並び、中央に祭壇がある。屋根はなく、空が丸く切り取られていた。
「きれいだな」とユーダが言った。
「ああ」とレイナが言った。
「神聖です……!」とガルドが言った。
「データを取ります」とミルフィが言った。
「お前は遺跡を見て何を感じてるんだ」とグリムが言った。
「研究への興奮です」
「感受性の方向が特殊だな」
神殿に近づいたとき、ユーダは気づいた。
誰かいる。
柱の影に、人が立っていた。
黒いローブを纏った、長身の人物。フードを深く被っていて顔が見えない。じっと祭壇を見ていた。
レイナが剣に手をかけた。
「待って」とユーダが言った。
「敵かもしれない」
「話してから判断しよう」
ユーダは神殿に入り、人物に近づいた。
「あの、すみません」
人物が振り返った。
フードの奥に、目が見えた。金色の、鋭い目。
「……旅人か」
声は低かった。男だろうか。年齢は読めない。
「はい。この遺跡に用があって来ました」
「私もだ」
「何の用ですか?」
人物は少し間を置いた。
「……魔王の動向を調べている」
「魔王の?」
「私は、魔王に仕える者ではない。魔王を止めようとしている者だ」
全員が少し緊張を緩めた。
「……信用していいの?」とユーダがグリムに小声で聞いた。
「嘘はついていない」とグリムが言った。「精霊には分かる」
「じゃあ敵じゃない」
「少なくとも今は」
ユーダは人物を見た。
「俺たちも魔王を間接的に止めようとしてます。遺跡を巡って聖剣を育てて」
「聖剣……」
人物の目が、ユーダの右頬に向いた。
フードの奥で、目が見開かれた。
「……それが聖剣か」
「そうみたいです、困ってますけど」
「困ってる?」
「顔から生えてるので」
「……なるほど」
人物はしばらく黙った。
「お前たちの旅の邪魔をするつもりはない。祭壇を使うがいい」
「ありがとうございます」
ユーダが祭壇に向かいかけると、人物が言った。
「一つだけ教えてやろう」
「何を?」
「この先の遺跡、二か所は魔王の手の者が封印を狙っている。気をつけろ」
「封印?」
「聖遺跡の力を封じれば、聖剣は育たない。魔王側もそれを知っている」
ユーダは重くなった空気を感じながら、人物を見た。
「……あなたは、何者ですか」
人物は少し笑ったような気がした。フードの奥だから確認できなかったが。
「また会うことがあれば、話そう」
それだけ言って、人物は柱の影に消えた。
跡には誰もいなかった。
「……消えた」
「転移魔法だな」とグリムが言った。
「敵じゃないよね? 本当に?」
「本当に。ただ、言っていたことは本当だ。この先、魔王側が遺跡を狙ってくる可能性がある」
「……旅が難しくなってくるね」
「そうだ」
レイナが静かに言った。
「だが今は、目の前の遺跡だ」
「そうだね」
ユーダは祭壇に手を当てた。
今まで以上の光が溢れた。
右頬が、強く熱くなった。
伸びた。今回が一番大きい変化だった。
「計測します!」とミルフィが飛んできた。
「どのくらい?」
「……三・五センチ。今回が最大の成長です」
「三・五センチも一気に……」
「残り十二か所。このペースで行くと——」
「言わなくていい」
「でも——」
「言わなくていい!」
ガルドが目を潤ませながら言った。
「聖剣が育っていく……感動です……!」
「俺の顔が育っていくんだけどね!」
「聖剣が……!」
「一緒なんだけどね!!」
神殿を後にしながら、ユーダは右頬を触れた。
だいぶ大きくなってきた。
帽子では、そろそろ隠しきれない。
でも——その分、抜ける日が近づいている。
謎の人物の言葉が頭に残っていた。
魔王側が遺跡を狙っている。
旅は、これからが本番だ。
「グリム」
「なんだ」
「次の遺跡、急ぎで行こう」
「珍しく積極的だな」
「魔王側に先に行かれたくない」
「……そうだな」
グリムは頷いた。
全員が足を速めた。




