第十章「謎かけが得意なのがミルフィだったので少し嫌だった」
三か所目の遺跡は、地下にあった。
村外れの丘を下った先、草に埋もれた石段を降りていくと、地下へ続く通路が現れた。松明の灯りが届かないほど深く、空気が冷たかった。
「……遺跡って、だいたい不便な場所にあるね」とユーダが言った。
「神聖な場所は、簡単には近づけないものだ」とガルドが言った。
「神聖なのは分かるけど、もう少しアクセスよくしてほしかった」
「罰当たりなことを言うな」
「本音を言っただけ」
グリムが先頭を飛びながら言った。
「もうすぐ扉がある。ただし——」
「ただし?」
「少し特殊だ」
扉は、巨大だった。
高さは五メートルほど。素材は黒い石で、表面に複雑な文様が刻まれている。取っ手も鍵穴もない。ただ文様だけが、薄く光っていた。
そして扉の中央に、文字が刻まれていた。
古代語で書かれた、長い文章。
「……なんて書いてある?」とユーダが聞いた。
ミルフィが一歩前に出て、目を細めた。
「読めます」
「本当に?」
「王立魔法学院では古代語も必修なので。えっと——」
ミルフィは文章を声に出して訳した。
「『我は常に進むが、足を持たない。我は常に語るが、口を持たない。我を持つ者は豊かになるが、我を与えた者は何も失わない。我は何か』」
沈黙が落ちた。
全員が考えた。
レイナが腕を組んだ。ガルドが首を傾けた。グリムが目を閉じた。ユーダが頭を抱えた。
「……分かる?」とユーダが全員に聞いた。
「分からない」とレイナが言った。
「神の試練ですね」とガルドが言った。「真摯に向き合えば答えは——」
「知識」とミルフィが言った。
「え?」
「答えは知識です。常に進む、足がない、語るが口がない、与えても失わない——全部、知識の性質と一致します」
全員がミルフィを見た。
「……早くない?」とユーダが言った。
「問題を聞いた瞬間に分かりました」
「俺たちがまだ考えてる間に」
「この類の謎かけは古代文献によく出てくるので」
「本を読んでてよかったね」
「読んでいて悪いことはありません」
ガルドが感動した顔で言った。
「ミルフィさんは天才だ……!」
「理論は得意なので」
「実技は?」とユーダが聞いた。
「……練習中です」
「今日の魔法、木を二本倒したからね」
「でも魔物は全員倒しました」
「不安しかない」
ミルフィが扉に向かって「知識」と古代語で語りかけると——扉がゆっくりと開いた。
「開いた!」
「当然です」
「でも少し悔しい気持ちがある」
「なんで悔しいんですか」
「俺が答えたかった」
「分かりましたか」
「……分からなかったけど」
「では悔しがる資格はありません」
「正論が刺さる!!」
レイナが扉の奥を見た。
「魔物は?」
「謎かけを解いた者には危害を加えない設定になっているようです」とミルフィが文様を読みながら言った。
「設定って言うと身も蓋もないな」とグリムが言った。
「古代の神殿はそういうものですよ」
扉の奥は、広い石室だった。
壁一面に古代の文様が刻まれ、天井から光が降り注いでいる。天井に穴があるわけではないが、なぜか明るかった。
中央に、祭壇があった。
今までの遺跡の中で、一番大きな祭壇だった。
近づくと、右頬が熱くなった。前回より、強い熱だった。
「……三か所目」
ユーダは祭壇に手を当てた。
光が溢れた。
石室全体が輝いた。文様が鮮明に浮かび上がり、壁から光の粒が溢れ出した。
右頬が、これまでで一番強く熱くなった。
そして——
「……また伸びた」
触れると、はっきり分かった。一か所目、二か所目と明らかに違う。柄の形が、より鮮明になっている。
「計測します!」とミルフィが飛んできた。
「どのくらい?」
「……二・一センチ伸びました。成長速度、さらに加速しています」
「加速してる」
「遺跡を重ねるごとに加速するようです。このペースで行くと——」
ミルフィが計算した。
「残りの遺跡を全部回り終えたとき、顔から出ている部分は——かなりの長さになります」
「どのくらい?」
「……剣一本分、ほとんど出ているかもしれません」
静寂が落ちた。
「剣一本分……」
「顔から」
「顔から」
ユーダは天井を仰いだ。
「……帽子じゃ絶対隠れないじゃん」
「隠れません」
「マントで覆うとかは」
「剣がひっかかります」
「はあ」
ガルドが言った。
「しかし聖剣が全て顕現したとき、どれほど神々しい光景か……!」
「俺の顔から剣が一本出てる光景を神々しいと言うな!!」
石室を出て、地上に戻ったとき。
ユーダはしばらく空を見上げていた。
三か所、終わった。
でも——まだ先は長い。そして遺跡を重ねるごとに、剣は大きくなる。
「グリム」
「なんだ」
「残りの遺跡、いくつある?」
「十三か所だ」
「十三……」
「多いな、と思うか」
「思う」
「ただ」とグリムが言った。「一か所目より三か所目のほうが、お前は強くなっている」
「剣が強くなってるのが正確では?」
「剣だけじゃない」
グリムは珍しく、真っ直ぐにユーダを見た。
「お前自身が、だ」
ユーダは黙った。
「……そう?」
「見ていれば分かる」
グリムはそれだけ言って、前を向いた。
ユーダは右頬の金属を触れた。
三か所目。また伸びた。
でも——俺も少し、伸びてるのかもしれない。
そう思うことにした。




