第28話:未来へ
講義の合間、スマホが震える。
画面を見る。
澪からのメッセージ。
『今日、ちょっと話せる?』
短い一文。
いつも通り。
重くない。
でも――分かる。
これが、どういう意味か。
少しだけ、間が空く。
指が、止まる。
断る理由は、ない。
でも。
受ける理由も、もう違う。
ゆっくりと、息を吐く。
画面を見つめたまま。
言葉を選ぶ。
逃げないように。
誤魔化さないように。
それから、打つ。
『ごめん。今日は無理』
一度、止まる。
親指が、ほんの少しだけ止まる。
それだけじゃ、足りない。
逃げになる。
だから。
続ける。
『ちゃんと話したいことあるから、また時間もらえる?』
送信。
すぐに、既読がつく。
でも、返信は来ない。
それでいい。
ポケットにスマホを戻す。
胸の奥が、少しだけ重い。
それでも。
さっきより、ちゃんと前を向けている気がした。
校舎の外。
人の流れが途切れたところで、澪は足を止めた。
これまでとは違うメッセージ。
智也が立ち直ったのだと、思った。
理解した。
だって、私は幼馴染なのだから。
「……そっか」
小さく息を吐く。
視線を落とす。
スニーカーのつま先。
少しだけ、力が入る。
「今は、負け」
はっきりと口にする。
喉の奥が少しだけ、引っかかる。
飲み込まない。
曖昧にしない。
それが、自分のやり方だから。
でも。
「……だからって、終わりじゃない」
すぐに続ける。
顔を上げる。
雲は、もうほとんど消えている。
梅雨が明けて、夏に向かう途中の空。
スマホを操作する。
画面を開く。
でも、トーク画面――は開かない。
代わりに、別のアプリ。
勉強用のスケジュール。
今日のチェック欄は、まだ空いている。
「……やること、やろ」
小さく呟く。
遠回りでもいい。
時間がかかってもいい。
同じ場所に立てるようになる。
そのときに――
「もう一回、ちゃんと勝負する」
指が動く。
未完了だった項目に、チェックを入れる。
それから、新しく一つ追加する。
『模試:志望校判定Aまで上げる』
少しだけ、笑う。
「簡単じゃないけど」
そのくらいじゃないと、意味がない。
スマホを閉じる。
ポケットにしまう。
さっきまでとは違う顔で、前を見る。
「十年後は分からない、でしょ」
自分で言った言葉を、もう一度なぞる。
――止まらない。
それだけは、決めている。
「待ってなさい、智也」
――絶対に、振り向かせる。
私は歩き出す。
同じ場所じゃない。
貴方の隣へ。
でも、同じ未来を目指して。
次回、最終話。




