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貞操観念逆転世界で100分の1の出会い(年上女性と年の差恋愛)  作者: くろのわーる
第2章

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第27話:カフェ



 指定された時間より、少しだけ早く着いた。


 待たせたくなかった。


 あのとき、待たせようとしたから。


 だから今度は、待つ側でいたかった。


 ――そのつもりだったのに。


 カフェのドアを開けると、静かな空気が流れてくる。


 指先が少しだけ、冷えていることに気付く。


 視線を巡らせて――見つける。


 奥の席。


 智也は、もう来ていた。


 目が合う。


 逸らされない。


 それだけで、少しだけ救われる。


「……ごめん、待たせた?」


「いや、俺も今来たとこだよ……」


 嘘だと分かる。


 お互いにぎこちなさが出ていた。


 でも、それを指摘する資格はない。


 向かいに座る。


 距離は、テーブル一枚分。


 たったそれだけなのに、遠い。


 何から言えばいいのか分からない。


 でも――


「……ごめん」


 先に出たのは、それだった。


 視線を落とす。


 逃げないように、手を握る。


「この前のこと」


 喉が、少しだけ詰まる。


「私――」


「うん」


 遮らない。


 待ってる。


 それが、余計にきつい。


「……知ってたの」


 正直に言う。


「大学のことも、その人のことも」


 沈黙。


 逃げたくなる。


 でも、逃げない。


「……どうやって?」


 静かな声。


 責めてはいない。


 でも、逃がさない声。


「小林に、聞いてた」


 はっきり言う。


「妹から聞いた情報を、そのまま」


 そこで一度、言葉が止まる。


 でも。


「……止めなかった」


 続ける。


「むしろ、もっと知ろうとした」


 息が、浅くなる。


「心配で」


 違う。


「……安心したくて」


 訂正する。


 逃げない。


 自分で言い直す。


 智也は、何も言わない。


 ただ、聞いている。


「でも、それって」


 視線を上げる。


 ちゃんと、見る。


 一度だけ、息を吸う。


「信頼じゃなかった」


 言い切る。


 怖いけど。


「……ごめん」


 もう一度。


 今度は、さっきよりちゃんと。


 言葉にする。


 沈黙。


 長い。


 逃げたくなる。


 でも。


 今度は、逃げない。


「……正直さ」


 智也が、口を開く。


「びっくりした」


 まっすぐな言葉。


「なんで知ってるのか、分からなくて」


 苦笑いみたいな表情。


「ちょっと、怖かった」


「……うん」


 受け止める。


 否定しない。


「でも」


 一拍。


「怒ってるわけじゃない」


 顔を上げる。


 ほんの少しだけ、息が戻る。


「ただ」


 続く言葉に、また体が強張る。


「このままだと、無理だと思った」


 逃げ場のない、事実。


「……うん」


 それも、分かってる。


「俺さ」


 視線が、まっすぐ向けられる。


「全部共有するの、違うと思ってる」


 ゆっくりとした声。


「どこにいたとか、誰といたとか」


「……」


「聞かれたら答えるけど」


 一拍。


「最初から全部知られてるのは、きつい」


 胸に、刺さる。


 でも。


 これは、必要な痛み。


「……ごめん」


 反射じゃない。


 理解して出た言葉。


「それでさ」


 智也は続ける。


「これからどうするか、なんだけど」


 心臓が、強く鳴る。


 ここが、分岐。


「今までみたいには、戻れないと思う」


 息が、止まる。


 でも。


「……うん」


 逃げない。


「その代わり」


 少しだけ、声が柔らかくなる。


「ちゃんと作り直したい」


 顔を上げる。


 視線が、合う。


「信頼」


 その一言。


 軽くない。


 だからこそ、重い。


「……できる?」


 問われる。


 試されている。


 でも、それでいい。


 選ぶのは、自分だ。


 少しだけ、息を吸う。


 怖い。


 でも。


「……やる」


 はっきりと、言う。


「ちゃんと、やる」


 逃げないと決めて。


 言葉にする。


 智也は、少しだけ目を細めた。


「じゃあ」


 一拍。


「まずは一つ」


 静かに、続ける。


「勝手に知ろうとしない」


「……うん」


「不安になったら、聞く」


「……うん」


「俺も、ちゃんと答える」


 そこで、少しだけ空気が緩む。


「それで、どう?」


 差し出される形。


 押しつけじゃない。


 ちゃんと、対等。


「……いい」


 小さく、でも確かに頷く。


 さっきまでの距離が、少しだけ縮まる。


 テーブル一枚分。


 でも。


 さっきより、遠くない。


 完全に元通りじゃない。


 でも。



 終わりでもない。



 ――ここから、作り直す。



 私たちは、並んでは帰らなかった。






次話は月曜日です。

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