表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貞操観念逆転世界で100分の1の出会い(年上女性と年の差恋愛)  作者: くろのわーる
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/76

第19話:重なり



 その日も塾だった。


 迎えはお母さん。


 ついこの間は、智也が迎えに来てくれた。


 それだけで私にとって、記憶に残る特別な時間になる。


 隣で運転するお母さんは変わらない日常。


 何も疑う必要のない、当たり前の安心。


 ぼんやりと流れる景色に楽しかったなと、ひとり振り返る。


 自宅に着き、何気なく隣の家を見た。


 智也の実家。


 私の幼馴染の家。


 そして、彼が消えてしまった家。


 そのはずだった。


 ついこの間、乗せてもらったバイク。


 疎遠になっていた私と彼を繋げた思い出が停まっていた。


 彼が帰って来てるの?


 ……どうでもいい。


 そんなことはどうでもいい。


 大事なのは私の手に彼が届くところにいるという事実のみ。


「お母さん、ちょっと智也の家行ってくる」


「え?もう夜よ。迷惑になるからやめときなさい」


「大丈夫、迷惑そうならすぐに帰ってくるから」


 私はお母さんの静止に振り返ることなく、歩を進めた。


「こんばんは」


 確認のために顔を出したのは、香菜さんだ。


 智也の義理のお母さん。


 まだ、おじさんと再婚して半年。


 私との関係は厚いとは言えない。


 正直、やりにくい相手。


「おお、澪ちゃんか。こんな時間にどうしたんだ?」


 だけど、そこに遅れて現れたのは智也のお父さん。


 心の中で、静かに息をついた。


「智也が帰ってきてるみたいだったんで顔を見に来ました」


 嘘を言う必要はない。


 おじさんは昔から私が智也のことを好きなことくらい知ってるから。


 二人は顔を見合わせる。


 その表情に私の直感は震えた。


「まあ、帰ってきてはいるんだが……今はちょっとな」


 ここだと思った。


 ここしかないと本能が訴える。


「会わしてもらえませんか」


 理屈じゃない。


 けど、引けない。


 二人は困った顔をした。


「私は智也のことが好きだから」


 他はいらない。


「だから彼に会いたい」


 今、大事なのは気持ちだ。


「……」


 おじさんの私を見る目は悲しそうだった。


「わかった、智也は2階の部屋にいるから」

「あなたっ!?」


 香菜さんが驚いたようにおじさんを見るが私はもう止まらなかった。


 二人の横を通り、階段を駆け上がる。


 たった数歩の歩行なのに、フルマラソンの後のように心臓が暴れる。


 息を整えることなく、ゆっくりとドアノブを握った。


 初めて開ける扉。


 踏み込んではいけない場所だと、どこかで分かっていた。


 初めて踏み入れる智也の部屋。


 視線の先には、彼がベッドで俯せになっていた。


 一歩、また一歩と近付く。


 でも、彼は動かない。


 間違いなく、起きている。


 なのに……。


「ねぇ、……ちゃんと私を見て」


 私の声で彼の指が動いた。


 横になっている背中で何があったのか解ってしまった。


 それくらい彼は弱っていた。


 優しく膝からベッドに上がる。


 彼はまだ動かない。


 タンデムで知っている背中に触れる。


 記憶よりも温かい背中。


 そっと、体を重ねた。


「ねぇ、……逃げないで」


 背中に語りかける。


 腕を潜り込ませ、腰をキツく抱く。


 彼の身体が、強張った。


 でも、止まれない。



「……私じゃ、だめ?」



 自分でも気付かないうちに彼の背中を濡らしていた。



 身体から力が抜ける。



 私は更にキツく、強く抱き締める。



 そのまま、重なったまま――離れられなかった。



 彼は、最後まで振り返らなかった。



ブクマ、評価いただければ励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ