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貞操観念逆転世界で100分の1の出会い(年上女性と年の差恋愛)  作者: くろのわーる
第2章

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第7話:夜

 


 私が仕事から帰宅すると彼はエプロン姿で迎えてくれる。


「おかえり、すず」


「ただいま、智也」


 彼の笑顔に仕事の疲れが吹き飛ぶ。


「夕飯の準備出来てるけど、先にお風呂にする?それとも……」


 わざとイタズラをしてくる笑顔に私は負けじと応戦する。


「……なら最後のにしようかしら」


 そう言ってにじり寄る私に彼は予想外だったのか、少し慌てる。


「ふふ、冗談よ。先にお風呂入っていい?」


「う、うん……」


 彼は安堵の息をつくがどこか残念そうでもあった。


「じゃあ、お風呂の準備しておくから、着替えてきて」


「わかったわ、ありがと」


 私室で着替えながら思う。


 疲れて帰れば温かいご飯があって、無理に強がらなくてもいい顔で笑ってくれる。


 こんな人を、どうして他の女が放っておくのだろう。


 帰ってきた時のセリフ――女の事を分かってるとしか思えない。


 そう考えると新たな不安が芽生える。


 あの笑顔を向けられて、私はどうしても動揺してしまう。


 今日、何度目かの不安な感情。


 着替えていた手が止まる。


 暗い思考に陥りそうになった時、ドアがノックされる。


「すず、お風呂の準備出来たよ」


 油断していた身体はビクッと肩を揺らす。


「わかったわ、今行く」


 慌てて、スーツをハンガーにかけて、部屋着を着ると部屋を出る。


 ドアの前には彼が立っていた。


「すず、疲れてるの?」


 心配そうな声音。


「ううん、ちょっと、ぼ〜としてただけよ」


 些細な嘘――私の強がり。


「ならいいけど」


 そこで彼はまたイタズラっ子な笑顔を見せる。


「もし、疲れてるなら今度から手伝おうか?着替え」


 見え見えな冗談。でも、それはそれで有りだ。


「なら手伝ってもらおうかな……お風呂」


「えっ!?」


 想像したのか、彼は真っ赤な顔をする。


「年上の女をからかうと、どうなるか教えてあげる」


 彼の腕を取ると、不敵な笑顔でお風呂場へと向かう。


 どこで解放してあげようかしら。


 不敵な笑顔はもう少し続く。



 お風呂から出た私の髪を彼が乾かす。


「髪は女の命と思って、扱うのよ」


「はい!すずさん」


 年上をからかった罰に彼にはお風呂から出た後を手伝ってもらってる。


「それにしても、すずの髪、綺麗でサラサラ」


「ふふ、ありがと。智也は女の褒め方を知ってるわね」


 暗に他の女にも褒めたことあるの?と言ってしまったようなものだ。


「俺が褒めたいのはすずだけ」


 直球な言葉に湯上がりで火照った身体が上書きされる。



 夕食を済ませると彼はお風呂に私はリビングで寛ぐ。


 リビングの明かりは落とし気味で、外の高層ビルの光がカーテン越しに差し込んでいる。


 程なく寛いでいると彼はソファに座り、今日の授業の復習を始めた。


 私は熱心な彼の為にお茶を入れにキッチンへ。


 傍らのラグに膝をつき、二人分のお茶を運ぶ。


「今日、大学行ってみてどうだった?」


 私の声は柔らかく、でも自分で驚くほど心配そうだった。


 彼はカップを持つ手を止め、小さく息を吐く。


「自分が知らなかった世界を知れた」


 声は落ち着いているけれど、目の端には微かな不安が揺れている。


 私はカップを受け取り、そっとソファに腰を下ろす。


「そっか。でも、大変だったでしょ?」


 彼は肩の力を抜き、ソファに深く背中を預ける。


「大変っていうより…ちょっと焦っただけだよ」


 思い出しているのか、目を閉じていた。


 そして、目を開くとこちらを向く。


「すずこそ、今日はちょっと変だったよ」


 隠してたつもりだけど、隠しきれなかった感情。


 落ち着かせる為にお茶を一口飲む。


「あなたが一人で戸惑うのを見るのは、やっぱり嫌だから」


 私は微笑み、そっと手を伸ばして彼の指と自分の指を絡めた。


「焦ってたんだ。それ、初めて聞いたかも」


 私は目を伏せ、指先で智也の手を握り返す。


「普段は見せないだけ。…でも今日は、少しだけ不安だったの」


 小さく息を吐き、彼の肩に頭を少し寄せる。


 智也はそんな私の肩に腕を回し、引き寄せる。


 その距離に胸が温かくなる。


「大丈夫、すずがいてくれるから」


 軽く頬を上げ、微笑む。


「この家では、ちゃんと守ってあげたいの…あなたのことを……」


 でも大学では守れない、この言葉は飲み込んだ。


 智也は自然にすずをさらに引き寄せ、頭を軽く抱くように寄せる。


「そっか。俺も、すずと一緒にいると安心する」


 私はその腕の温もりと鼓動を感じ、ほんの少しだけ目を閉じた。


 弱さを見せても、私の格は崩れない。


 むしろ、その強さは智也の存在によって柔らかく輝く。


 夜は静かに更けていく。


 けれど、二人の間に流れる時間は、どこまでも穏やかで確かだった。


 今日の孤独も、今日の不安も、今はすべて包み込まれていくようだった。


「そろそろ寝よっか?」


「もうそんな時間なのね」


 お互いに時計を見て、一日が過ぎようとするのが早く感じた。


 彼はテキパキとお茶を片付けるとリビングに戻ってきて、手を差し伸べてくる。


 その手を優しく包むと力強く握り返される。


 強く引き寄せられ、担ぐように抱っこされた私はされるがままに身を任せた。


 安心の腕の中でも、ほんの少しだけ明日への不安が指先に残った。




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