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貞操観念逆転世界で100分の1の出会い(年上女性と年の差恋愛)  作者: くろのわーる
第2章

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第6話:孤独

 


 車の少なくなった地下駐車場。


 その一角で親密な男女が一時の別れを惜しんでいた。

 

「それじゃあ、私は仕事に戻るわね」


 言葉とは裏腹に絡めた指は離れない。


「送ってくれて、ありがと」


 見つめ合う瞳。一方の奥には優しさがもう一方には感謝が満ちている。


 だけど、表情はお互いに名残り惜しんでいた。


「今日の夕飯は何食べたい?」


 少しでも一緒にいたい苦肉の策。


「私の為に作ってくれたものならなんでも」


 罠だと解ってても戸惑うことなく、踏み抜く。


 再びの見つめ合い。


 車内でシルエットが重なる。


 ……二人の口から息が漏れた。


「ふふ、ホントに行くわね」


 困ったように笑う彼女に促されて、俺は車を降りる。


「何かあったら電話して」


 それだけ言うと彼女の車は走り去っていった。


 そのテールランプが見えなくなり、エンジン音が聞こえなくなるまで見送る。


 ここからはまたひとりの時間。


 時間を割いてくれた彼女の為にも気合いを入れる。


 俺はリビングのソファーに座り、タブレットを起動した。


 ピッタリの時間。


 画面には教授の顔だけが映る。


 同期のアイコンは、ほとんど空白だ。


 リモート授業は初めてではない。


 だが、今日の孤独感はいつもと違った。


(キャンパスなら、少しは空気を感じられた……)


 授業の声は整然としている。


 カメラの向こうで話す人は誰もいない。


 手を挙げるアイコンも、チャットもほとんど動かない。


 孤独が、まるで空気のように部屋を満たしていく。


 彼女がいないことが輪を掛ける。


 息を吐いても、誰も気づかない。


 手を動かしても、誰も見ていない。


 俺は机の上の参考書に視線を落とす。


 文字を追うふりをしながらも、意識は完全に授業ではない。


 頭の中でキャンパスの光景が蘇る。


 正門前、周囲の女子学生のざわめき。


 遠巻きの視線。嫉妬と羨望。


 あの時は、怖さと緊張が混ざってた……でも、守ってくれるすずがいた。


 視線を画面に戻す。


 教授の声が淡々と続く。


 質問はあるが、誰も反応しない。


 孤独の中で、俺の存在は画面の向こうの空白に溶けてしまう。


 だが、その空白が逆に、自分を見つめる時間を与えてくれていた。


 この孤独が、今日だけの特別な重さを持っていることを、俺は理解していた。


 すずに追いつく為に自分で立った重さ。


 視界の隅で、指にはまる指輪が光る。


 眩しさではなく、安心感の象徴。


 孤独に囲まれても、守られているという実感がある。


 画面越しに教授の声を聞きながらも、心の中で小さく深呼吸する。


 時間がゆっくり流れる。


 時計の針は正確に進むが、室内の空気は止まっているように感じる。


 かつて経験したリモート授業とは違う孤独。


 今日、キャンパスに初めて足を運んだから知ることになった。


 俺はそっと机に肘をつき、頭を支える。


 テーブルの上を指で軽く叩きながら、頭の中で授業内容とすずの顔を交互に思い浮かべる。


 背後の窓から差し込む昼の光が淡く机に落ちる。


 光と影のコントラストが際立つ。


 これが、この世界の社会……。


 現実に押しつぶされそうになる瞬間、俺は無意識に思う。


 キャンパスで周囲に囲まれていた時とは違う、静かな重さがここにはある。


 でも、その重さが、自分と向き合う時間にもなる。


 教授の声が途切れ、資料のスライドが切り替わる。


 誰も気づかないひとりの中で、俺は自分の思考を整理する。


 この世界の秩序、授業の進み方、そして自分の立場。


 ひとりだからこそ、考えられることがある。


……でも、すずと一緒に並ぶためには。


 その一心で、俺は背筋を伸ばす。


 孤独の中でも、守られている感覚がある。


 それだけで、心は少し落ち着く。


 画面の教授の声に集中しなくても、心の奥で整うリズムがあった。


 授業が終盤に差し掛かる頃、ふと視線を窓の外に向ける。


 遠くの空に流れる雲を眺めながら、昼の光と自由な時間を噛み締める。


 孤独であることは、怖い。


 だが、守られているという事実が、それを和らげる。


 時計が15時を少し回る。


 授業は終わるが、画面にはまだ教授の顔だけが残る。


 参考書を閉じ、深く息を吐く。


 すると彼女の匂いを感じた。


 孤独と安心感が入り混じった、午後の短い時間。


 心の奥ではすずに早く会いたい気持ちが膨らむ。


 だけど、このひとりの時間が逆に自分を落ち着ける。


 講義が終わるのを見計らって、メッセージアプリの着信音が鳴る。


 画面を見なくても誰からのメッセージなのか。


 俺には分かっていた。




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