最終話
「みんな〜ご飯出来たわよ」
ウチの食卓に煮物の香りが立ち込めていた。
今日は正式に付き合うことになった、俺とすずを祝う為に両親が開いてくれた夕食会だ。
「それにしても二人がまさか、まだ付き合っていなかったなんて驚きだったぞ」
親父からしても俺達の雰囲気は恋人同士そのものだったんだろう。
「ホントにね、教えてくれたらもっと豪華な料理作ったのに」
「お、お気になさらずに……お母さん」
母さんはすずに呼ばれて、ニコニコしながらテーブルを整える。
俺とすずは照れくさくて顔を見合わせる。
食事の準備も整い、全員が席に着く。
「それじゃあ、頂きましょうか」
「そうだな」
母さんの掛け声で親父が立ち上がる。
「2人の未来を祝して、いただきます!」
「いただきます!」
両親は未成年の俺を放ったらかして、すずにお酒を勧めていく。
そういえば、すずってお酒飲んでるところ見たことないけど、飲めるのだろうか。
そんなことを思ってるとテレビの音が一際、響いた。
『それではニュースをお伝えします。』
『一昨日、◯◯県☓☓市にある山で狼の遠吠えが聞こえると通報がありました。○○県は報告を受け、近く調査隊を結成すると発表しました。』
「おいおい、××市の山っていったら、ウチのキャンプ場がある場所だぞ!」
俺とすずの箸がピタッと止まる。
「一昨日っていったら智也君とすずさんが泊まった日じゃない」
俺とすずの顔が仄かに赤く色付き始める。
「二人は狼の遠吠え聞かなかったのか?」
僅かな沈黙。
「いや、俺達は聞かなかったけどな…」
「わ、私が疲れて、早く寝ちゃったから」
『番組では通報者の方から提供された貴重な音声を入手しました。』
両親はテレビに釘付けだが、すずは震え出していた。
焦る俺はすずの震えを鎮めようとするが震えは大きくなるばかり。
『それではお聞き下さい。これが狼の遠吠えと呼ばれる音声です。』
『あうぉ〜ん、あうぉ〜ん』
テレビから流れた音声ですずの羞恥はピークを迎え、倒れる寸前だ。
ピッ!!
「智也なんで消すんだ」
野生のドキュメンタリーが大好きな親父が驚いた顔で振り返る。
「今日は俺達を祝う会だろ、そんなに気になるなら母さんと2人きりでキャンプして来いよ」
俺の発言に親父は納得する。
「そうだな、香菜。今度、2人きりでキャンプでもどうだ?」
「ええ、良いわね!」
この両親、再婚して半年も経っていないから俺達に負けず劣らずラブラブなのである。
両親の意識を逸らすことに成功した俺が一息ついてるとテーブルの下、俺達にしか分からないようにすずが手を握ってくる。
「(ありがと)」
夕食も終わり、両親はお酒の勢いもあってか、いちゃいちゃし始めた。
そんな両親を横目に俺達は静かに話す。
「すず、酔ってる?」
「ううん、一杯しか飲んでないから大丈夫よ」
すずは大丈夫とは言ったが飲んでしまった以上、もう運転は出来ない。
「すず、今日は俺に送らせて欲しい」
「それって……」
「約束しただろ、タンデム」
「うん!」
俺は両親を放ったらかしに優しく、すずへと手を差し伸べる。
彼女はその手を握り返してくるがいつもより熱っぽく感じた。
ガレージからバイクを出して、跨がるとすずが後ろに恐る恐る乗ってくる。
「すず、大丈夫?」
「大丈夫、智也の背中、逞しいよ…」
彼女は俺の腰に腕を回すとしっかりと抱き着いてきた。
「じゃあ、発進するからしっかりと掴まってろよ」
「…はい」
慎ましい返事をした彼女を背に俺のバイクは走り出す。
タンデムで走る夜の道は昼とは違う魅力がある。
街灯や信号の光がバイザーに反射しては流れていく。
「智也、風が気持ちいい」
腰に回された彼女の腕が今を噛み締めるようにギュッとキツくなる。
「すず、ちょっと寄り道していいか?」
「うん、お願い」
彼女の返事を聞いて、俺のバイクは帰路から外れて行く。
住宅街を抜けて、やがて灯りは街灯のみが目立ち始める。
暗く、車通りの少ない道。
建物がぽつぽつと並ぶだけとなった時、視界が拓け昼間のような明かりに覆われる。
俺が寄り道した場所は工場地帯が一望出来る場所。
そこにバイクを停めると並んで景色を眺める。
人工灯が照らす明かりは自然とは違う魅力がある。
会話がなくても、もう緊張する間柄じゃない。
「こんな場所があるなんて…綺麗ね」
「この景色、好きなんだ」
何処かで聞いた会話に彼女はクスッと笑う。
「すず、知ってる?」
「ん?」
「こういう時間って、記憶に残るらしい」
「ふふ、そうなんだ」
気付けば、どちらともなく、肩を寄せ合っていた。
「ねぇ、写真撮る?」
「やめとく、すずとまた来たいから」
優しく甘えるように肩に彼女の匂いが近付いた。
「そろそろ行こうか」
記憶に深く刻み込むように彼女は最後まで眺めていた。
バイクは夜の闇に溶け込み、音だけを置き去りにする。
住宅街に戻る頃には夜も完全に更けている。
彼女の住むタワーマンション。その入り口でバイクを停める。
だけど、彼女は降りない。
「ねぇ、智也…」
俺の背中に全てを預け、インカム越しに囁く。
「うち、寄ってかない?」
天使のささやき、喉がやけに乾いた。
バイザーの奥、彼女の瞳には焚き火よりも激しい炎が宿っていた。
第一章 完
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
私にとって、初めての長編恋愛ストーリー。
初めてにしては上手く書けたと思っております。
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