表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
貞操観念逆転世界で100分の1の出会い(年上女性と年の差恋愛)  作者: くろのわーる
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/76

30話:介護

 


 夜、病室へと続く廊下の照明が柔らかく灯る。


 私は一度、家に帰り自分の支度を整えると再び、智也君がいる病室へと戻ってきた。


 白いベッドの上に横たわる智也君の腕と足には、変わらず包帯が巻かれ、松葉杖がそっと立てかけられていた。


「智也君……夜ごはん、食べられそう?」


 彼は寝ていたのか、夕食は豪華な部屋のテーブルに置かれたままだった。


「……うん」


 寝起きの声と無防備な姿、痛む右腕、右足を庇う動きに、私の母性本能が高まる。


「動かないで。私が起こすわ」


 そっと上半身を抱え、私に寄せる。


 彼は真っ赤な顔でプルプルと震えていた。


「んっ!?どこか痛むの?」


「ち、違います……ちょっと、すずさんの……」


 小さく呟く声に、ピンときて思わずイタズラ心が芽生える。


 そして、そっと耳元で優しく囁く。


「元気…出た?」


 智也君は私の囁きに、今度は耳まで真っ赤に染めて俯いてしまった。


 お盆を手に、病院食を運ぶ。


「利き手、使えないでしょ?私が食べさせてあげるわね」


 コクンと可愛く頷く彼を見て、微笑みが自然と浮かぶ。


 小さなタオルを横に置き、腕に添えてスプーンを口元に運ぶ。


「……こうして支えてもらえるだけで、安心する……」


 智也君の声に胸がじんわり温かくなる。


「そう? じゃあ、もっと支えてあげる」


 微笑みながら、そっと体を密着させる。


「す、すずさんっ!?近過ぎませんか!?」


 距離が近いどころか触れているのだ。


 感覚全てを共有しているかのように。


 智也君は動揺しているが、でも私は引かない。


「街で智也君を見掛けた時、不安になった」


 そう幼馴染とタンデムしている時だ。


「…事故は間違いだって、願った…わ」


 智也君は静かに私の独白を聞いている。


「電話が繋がらなくて、ニュースサイトで記事を見た時、生きた心地がしなかった…」


 あんなにも泣いたのにまた私の目からは涙が溢れていた。


「すずさん…」


 私は智也君の肩に顔を押し付けていた。


「…いなく…ならないで」


 私の声は掻き消えそうなほど、小さかった。


「俺ならここにいます、すずさんの隣にずっと…」


 腰に力強い腕がまわされ、さらに引き寄せられた。


 腕の強さに、言葉よりも確かなものを感じた。


 智也君は小さく笑い、私は泣き笑いで視線を合わせる。


 腰に回された腕の強さが、まだ残っている。


 それでも私は、確かめるように聞いた。


「……夜は寂しくなかった?」


 囁くように聞く私に、智也君はうなずいた。


「昨日は麻酔が効いてたから」


「じゃあ、今は?」


「すずさんがいてくれるから、平気」


 その言葉に、指先へさっきよりも力を入れた。


 髪を耳にかけ、手を握り直す。


 窓の外の街灯が差し込み、オレンジ色の光が包帯に反射する。


 静かな病室。二人の呼吸だけが響く。


 外の騒音も、澪の存在も、一瞬だけ遠くなる。


「……ありがとう、すずさん」


 弱々しい声に、私は微笑む。


「私がいるから。安心して」


 肩に触れる温もり、手を握る力。


 夜の病室に二人だけの時間が生まれる。


 時計を見ると、もう夜も遅い。


「今日は……私、泊まって看病するね」


 自然に口から出た言葉に、彼は少し驚いたように目を見開く。


「え……すずさん?」


「実はさっき廊下で、智也君のお父さんに会ったの」


「ま、まさか…親父のやつ」


「…うん、息子をよろしくって」


「え、でも、すずさんにそこまで迷惑かけるわけには…」


「……嫌だった?」


「それはない!だけど…」


「だって、動けないんでしょ? 退院するまでの間は私がそばにいるから、大丈夫」


 手を握り直すと、智也君は小さく息をつき、緊張したように肩に力が入った。


 ベッドの横に折り畳みベッドをくっつけて、私は同じ枕を使うような距離で横になる。


 緊張で固くなっているのをほぐすように彼の胸に手を置く。


「夜は寒くない?」


「うん、すずさんの体温……温かい」


 更なる温もりを求めるようにギュッと手が握られた。


 光は薄く、外の街灯が優しく差し込む。


 静寂の中で、手のぬくもりと呼吸のリズムだけが、二人を包む。


「眠れる?」


「……うん」


 彼の胸の上で手を握り合ったまま、智也君の瞼が重くなる。


 私も手を握ったまま、目を瞑る。


 もう離れる理由はない。


 夜の病室に、二人だけの安心と静かな親密さがゆっくり広がっていく。


(最後に隣にいるのは、私――それだけでいい)


 隣にいる彼の体温と私の体温が混ざり合うように溶けていった。




ブックマーク、★評価よろしくお願いします。

励みになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ