27話:幼馴染
金曜の夜、親父と母さんは会社のみんなと結婚祝いの飲み会に行っており、俺は一人で留守番をしていた。
手持ち無沙汰で明日のキャンプの事を考えながら、ぼんやりしていたら、家の電話が鳴った。
「もしもし?」
「あっ!智也くん……悪いんだけど、私ぎっくり腰になっちゃって、今から澪の迎えに行ってくれない?」
隣の家の幼馴染、澪のお母さんからの電話だった。
「わかった。場所は?……あ〜、わかるよ」
返事をすると、向こうから小さく安堵の声が漏れた。
うちには母親がいなかったこともあり、おばさんにはよくお世話になっていた。
澪とは俺が高校に上がってから、久しく会っていない。
世界が変わる前の話だけど……。
ガレージに行き、澪の為のヘルメットも持って、バイクに跨がる。
そういえば、タンデムなんていつ以来かな……。
後、こっちの世界の澪って、どんな感じなんだろう。
安易に受けてしまったお願いに一抹の不安を掲げながら、俺はバイクで目的地へと走り出した。
教えてもらった場所はバイクで15分ほどの距離にある有名進学塾。
澪は春から進学校に入学する。
将来はエリートを目指しているとおばさんが言っていたのを思い出す。
その進学塾が入るビルの入り口で、幼馴染の澪が少し緊張した表情で立っていた。
「智也くん……?」
声が少し震えている。普段の無邪気な笑顔とは違う、初めて見るような表情だ。
「おばさんに頼まれて、迎えに来たよ」
「あ、うん……ありがと」
(ちょっと、お母さん!代わりの送迎って智也なの!?)
「ほい、ヘルメットな」
固まる澪に智也がヘルメットを投げ渡してくる。
「え、う、うん」
(こ、こここれって、智也の予備のヘルメットじゃん!)
「(なんだ……澪のやつ、妙に意識してるな……)」
背中に乗せると、微かに体温と震えが伝わってくる。
「澪、寒いのか?」
「だ、大丈夫!」
(ひゃー、どどどうしよう!?)
澪は俺の存在を頼りにしてくれているのだろうか、それとも少しドキドキしているのか。
——そんな気配を感じ、すずさんに対する申し訳なさを感じた。
「澪とタンデムするの初めてだよな?」
こっちの世界でどう接していたのか、解らないので確認の為に聞いておく。
「……そ、そうだよ」
(今まで乗せてくれなかったじゃん!)
「バイクには乗ったことある?」
私は激しく首を振り、否定する。
(ある訳ないじゃん!智也の後ろに乗るのが夢だったんだよ!)
「ならしっかり掴まってろ」
「……はい」
(どこに掴まればいいの!?)
「ちゃんと俺の腰に腕回せよ」
初めて男性と密着する状況に思考は停止しそうだ。
「……はい」
(……)
夜道には雨が降った後で道路は濡れている。
前方に注意しながらも、ふと澪の手が俺のジャンバーをギュッと握る。
「智也くん……ゆっくりね」
(と、智也の体温が…………)
その声に、少しだけ甘さが混じっている。
タンデム初めての澪を乗せていたので、いつも以上に安全運転を心掛けて走らせる。
交差点を曲がる瞬間、対向車が止まりきれずに突っ込んでくる。
反射的に身体を伸ばし、俺は澪を庇った。
――衝撃が全身を貫く。
バイクごと地面に叩きつけられ、痛みが腕と足に走る。
ポケットに入れていたスマホも衝撃で飛んでいった。
「だ、大丈夫か……?澪?」
声は震える。
腕の中の澪を確認すると、どうなったのかわかってないのかゴーグル越しにこちらを見ている。
「智也くん……!私は大丈夫……」
俺の声に、少し安心しているのか、少し怯えているのか、ヘルメットで表情が読み取れない。
「(……すまない、怪我させて……でも、守らなきゃ)」
痛みで息が浅くなるが、澪の安全を最優先に考える。
庇ったせいで今、澪に覆い被さる体勢になっているのでとりあえず、退こうとすると右手と右足に激痛が走る。
「っ!?」
「智也っ!大丈夫!?」
手足の激痛から骨折したと確信するが澪を不安にさせまいとヘルメットの中で笑顔を作る。
「だ、大丈夫だ……今、退くから」
俺達の事故を見た人がすぐに救急車を呼んでくれたようでサイレンの音が聞こえてくる。
救急車が止まると救急隊員が俺と澪の状態を確認する。
無線で「男性一名!重傷!」と緊急連絡している。
周囲も俺が男だと解った途端にざわつきが大きくなった。
澪は俺が庇ったおかげか、外傷は擦り傷と打撲程度に見える。
「智也、庇ってくれて……ありがとう」
事故のショックもあり、小さく呟く。
澪はまだ少し痛む身体を自身で、抱き締めながらも、心の中では自分のことを守ってくれた智也に感謝と強い想いを抱く。
――そして、俺は重傷と判断され、大事に担架に乗せられると救急車に入る寸前、視界の端にふと見覚えのある人影が映る。
「……すずさん?」
痛みに顔をしかめながらも、微かに笑い、無事な方の手を振ろうとするが……。
「骨折しているかもしれないので動かさないで下さい!」
救急隊員に注意され、諦める。
「(それにしてもすずさんに見られてしまったか……心配させたくないな)」
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