20話:予行練習
第一章ラストまで書き終わったので毎日、投稿します。
映画デートの次の日、智也の自宅ガレージ前。
遠くから大型バイクのエンジン音が近づき、すずが颯爽と姿を現した。
すずはガレージ入り口で立つ智也の前でヘルメットを脱ぐと、長い髪が風に揺れる。
その風と共にすずのシャンプーの匂いが智也の鼻を掠める。
ライダージャケットに包まれた姿は、普段の凛とした大人の印象とは違い、知性と色気をまとっていた。
智也は一瞬、息を呑む。
「すずさん……か、かっこいい……」
前にアウトドアショップで買った道具が詰まったリュックを背負い。
リュックの食い込みがジャケットの下の官能的な体のラインをさりげなく映す。
普段の自然な笑顔とは違い、俺だけに見せる無邪気な笑み。
昨日とはまた違う魅力に、俺の胸は激しい動悸に襲われる。
俺の目線は無意識にすずさんの仕草を追いかける。
リュックを下ろす瞬間、髪をかき上げる仕草……どれも普段の魅力とは違う、ワイルドな色気を感じさせる。
「おはよう、智也君。今日はキャンプの予行練習だけど、全くの素人だから指導の方、よろしくね!」
すずの声には穏やかさと落ち着きがあり、知性と色気が混ざった雰囲気。
俺は赤くなりながらも、誤魔化すように思わず笑みをこぼす。
「すずさん、おはよう!う、うん……今日はただの予行練習だから、あまり重く考えず俺に任せて!」
俺は心の中で改めて、すずさんを魅力的に思う。
ガレージのシャッターを開け、中にバイクをしまうように促す。
ガレージ内にはすでに俺が準備しておいた、キャンプ道具が床に並べてある。
組む前のテントや寝袋、バーナーやランタンがきれいに並び、すずはその準備の手際に自然と目を輝かせる。
「わぁ……全部揃ってるのね。さすが智也君」
「うん、来週の本番に向けて、段取りも確認しながら組み立てていきたいんで」
智也の手際よく作業する姿も、すずの目には初めてなこともあり頼もしく映る。
年下で一生懸命に背伸びするところが可愛いと思っていた彼が、こうして計画的に物事を進める姿を見ると、これまでとは違う魅力を強く感じるのだった。
庭に移動して二人でテントを広げ、ポールやパーツを組み立てる間も、智也は淡々と手順を説明しながら、すずの動きをフォローする。
たまに触れる手の柔らかさ、穏やかに指示を受け入れる姿勢……何より、すずの甘い香りで脳を揺さぶられる。
今日は教える立場とあって、半歩下がって見守っているが色っぽさと素直さの両方を持ち合わせる、すずさんに俺は良い意味で複雑な感情を膨らませる。
「ここはこうやって差し込むんで……。うん、すずさん、手際いいね」
「ふふ……智也君に褒められると嬉しいわ」
その後も、俺はすずさんを指導しながら、テントの角やポールを調整していく。
テントの布が、突然ばさりと大きく鳴った。
次の瞬間、強い風が庭を抜ける。
「きゃっ――」
すずの足元がわずかに浮く。
張りかけのテントが帆のように膨らみ、体が持っていかれる。
俺は反射的に腕を伸ばした。
「おっと!」
背後から包むように、すずさんの身体を抱きとめる。
ぐらりと傾いた重みが、そのまま腕の中に落ちてくる。
最初に思ったのは「間に合った」よりも「こんなにも軽い」だった。
けれど確かな体温が、服越しに伝わる。
背中に触れた瞬間、すずさんの髪がふわりと揺れ、俺の頬をかすめた。
甘いシャンプーの香りが、さっきよりも近い。
腕の中で、すずさんの呼吸が止まる。それが分かる距離だった。
腰に回した腕に細い身体のラインがはっきりと伝わる。
俺は慌てて力を緩めようとするが、まだ風が強い。
「……大丈夫ですか」
声が少し低くなった。意識とは反対に腕に力が入り、薄っすらと血管が浮き上がる。
すずさんはすぐに返事をしない。
代わりに、自分でも気づかないうちに、俺の腕を掴む手に力が入る。
支えられている。守られている。
その事実で、息が出来ない。
背中越しに感じる智也の鼓動。
早鐘のように鼓動が打つ。
「……あ、ありがと」
ようやくこぼれた声は、少し掠れていた。
智也君はゆっくりと腕を離す。けれど、完全には距離を取れない。
互いに一歩も動けずにいる。
風が弱まり、テントの布が静かになる。
静寂。
私は振り向く。
これまでにない至近距離。
智也君の真剣な目。今はまつ毛の数が数えられそうな程、近い……。
さっきまで「教えてくれる年下」だったはずの顔が、今は違って見える。
反射ではなく、迷いなく。
自分を守るために動いた男の顔。
胸の奥が、熱を帯びる。
いつからだろう。自分が守る側だと思っていたのに。
智也君はゆっくりと距離を離す。
けれど完全には距離を取れず、二人の間にはまだほのかな温もりが残っていた。
風が静まり、テントの布が静かに揺れる中、すずは軽く首を振る。
「頼もしかった」
その一言で、智也君の頬が熱を帯びる。
二人は短く目を合わせ、ふっと笑みを交わした。
言葉は少ないけれど、今の時間をしっかり共有したという余韻が、胸にじわりと広がる。
「じゃあ……そろそろ、続きをやりましょうか」
智也君が声をかける。
私も自然にうなずき、背伸びしてテントの残りのパーツに手を伸ばす。
腕の温もりは消えても、心の中にはまだ柔らかい残像が残っていた。
その余韻を抱えながら、二人は寝袋やマットの準備に取りかかる。
微笑みながら互いに道具を渡す手に、さっきの距離感の余韻がほんのり残る。
作業は淡々と進む。
けれどどこか、空気は以前より少し柔らかく、互いを意識した温度を帯びていた。
言葉数がやや少ないまま、寝袋やマットを広げ、荷物のパッキング方法を確認していく。
俺はリュックの重さや収納の順番まで細かく指示し、彼女も論理的な方法に驚きながらも楽しそうに動く。
「すずさん、呑み込みが凄く早いから来週のキャンプを終えた時には立派なキャンパーになってそうだね」
「そうかな……でも智也君の教え方が上手で、ちゃんと私の事を考えてくれてるからよ」
すずは微笑み、胸の奥に温かい気持ちを抱えながら智也を見つめる。
智也もすずを見つめながら微笑む。
映画の余韻、今日の準備、二人の心は、来週の冒険に向けて、そして、それ以降の関係にも、自然と高まっていた。
糖度10段階で5くらいかな。
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