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貞操観念逆転世界で100分の1の出会い(年上女性と年の差恋愛)  作者: くろのわーる
第一章

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19話:映画

 


 週末の昼下がり、すずは通い慣れつつある智也の自宅前に車を停め、一度だけ深く息を吸った。


 今日は智也君の為に――いや、来週にキャンプを控えた自分達の為に選んだ映画。


 サプライズだと言った以上、ただ楽しいだけじゃなく、智也君の心に何か残る時間にしたかった。


 電話でうっかりを装って、サプライズと言ったのはちょっとだけハードルを下げる為……。


 玄関のドアが開き、彼が少し緊張した様子で姿を現す。


「すずさん、いつも迎えに来てくれてありがとうございます!」


「当たり前でしょ。今日はお出掛けじゃなくて、智也君から誘ってくれたデートなんだから」


 そう言って微笑むと、彼は少し照れたように頷いた。


 その反応だけで、胸の奥がじんわり温かくなる。


 車に乗り込み、エンジンをかける。街並みが流れ始めると、自然と会話も柔らいでいく。


「映画、何を見るかはまだ内緒ですよね?」


「ええ。ちゃんと席に着くまではサプライズよ」


「気になります……でも、すずさんが選んでくれたなら安心です」


 その言葉に下げたはずのハードルが上がったことを察して、私はハンドルを握る指に少し力を込めた。


 映画館に到着し、定番のポップコーンを選ぶ。


「すずさんは何味が好きです?」


「私はキャラメルね、智也君は?」


「俺は……う〜ん、どっちにしようかな」


 真剣に悩む姿がとても微笑ましくて、ずっと見ていられるけれど、上映までの時間は有限だ。


「どの味で迷ってるの?」


「キャラメルか塩です」


「なら塩にして、私のキャラメルと半分こする?」


「する!それ良いですね!」


「ふふ……」


 喜ぶ姿はまるで子犬がしっぽを振っているようでまた「可愛い」と言いそうになるが寸前で呑み込んだ。


 2人とも両手に飲み物とポップコーンを持ち、座席に落ち着く。


 上映が始まると、スクリーンには“二人で困難な旅に出る男女”の物語が広がった。


 危険な世界の中で、互いを気遣い、支え合いながら前へ進む姿。


 ——けれど、智也君はこの映画をどう見ているのだろう。


 私が勝手に重ねているだけだったら、少し恥ずかしい。


 男役は男装に定評のある女優。


 智也はふと、隣に座るすずの存在を意識する。


 ――守られているだけじゃない。一緒に進んでいる。


 そんな感覚が映画に共感してか、胸の奥に静かに広がっていった。


 クライマックスで二人が無事に帰還する場面。


 安堵と喜びが重なり、智也とすずの手がわずかに触れる。


 智也は反射的に手を引きそうになって、やめた。


 逃げたくなかった。


 彼女の隣にいるのは、守られる役で終わりたくなかったからだ。


 智也もすずもその小さな接触に、心臓が跳ねるのを感じていた。


「(……選んでよかった)」


 心の中で、そっと呟く。


 映画が終わり、館内を出ると、二人の間には言葉にしなくても伝わる余韻が残っていた。


「いい映画でしたね」


「うん……すごく。なんだか、今の私たちみたいだった」


 すずがそう言うと、智也は一瞬驚いたように目を瞬かせ、それからゆっくり笑った。


「俺も同じこと考えてました」


 車に戻る途中、智也が少し躊躇いながら口を開く。


「あの……このまま帰るの、ちょっともったいない気がして」


 すずは一瞬、智也の横顔を見る。


「……実は私も。少しだけ、寄り道しない?」


 二人が向かったのは、映画館から少し離れた高台のカフェだった。


 夕方の光が街を柔らかく包み込み、テラス席からは遠くまで見渡せる。


 温かい飲み物を手に並んで座ると映画の余韻がさらに深まっていく。


「映画の二人、最後に『2人一緒なら怖くない』って言ってましたよね」


「ええ。あれ、すごく良かった」


「俺も……すずさんといると、同じ気持ちになります」


 智也の言葉は飾り気がなく、だからこそ胸にまっすぐ届いた。


 私は空を見上げ、ゆっくり息を吐く。


「来週のキャンプも、きっとあんな感じになるのかしら……。ちょっと非日常で、でも安心できて」


 私の言葉を聞いた智也君の顔がいつも以上に男らしくなるのがわかった。


「特別な日にしてみせるんで、楽しみにしていてください!」


 初めて、智也君とディナーへ行った時の自分と重なる。


 帰りの車内、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。


 智也君を送り届け、タワマンに着く前。すずはふと思う。


 ――あの映画を選んだのは正解だった。


 物語を共有したことで、二人の距離は確かに近づいている。


 夜、ベッドに入った、すずのスマホが震える。


「今日はありがとうございました。映画も、その後の時間も……また忘れられない一日です」


 そのメッセージを見て、すずは静かに微笑んだ。


 映画の冒険は終わった。


 でも、二人の“これから”は、まだ始まったばかりだった。


 ベッドに入ったすずはスマホを胸に押し当てながら微笑む。


「映画も楽しかったけど……来週のキャンプも楽しみ。智也君と一緒なら、きっと何でも楽しい」


 心の中でふわっと温かさを抱えながら、すずはそっと目を閉じる。


 明日のキャンプの準備も楽しみだな。


 テントを立てる練習や荷物の整理、キャンプ料理……いつも以上に張り切っていた智也君と一緒なら、ちょっとした予行練習もワクワクする。


「さっきまで一緒にいたのに、明日が待ちきれないかも」


 これから訪れる非日常の冒険に向けて、心の中で小さな期待と楽しさが膨らんでいった。


 そのとき、スマホが軽く震える。


 智也君からのメッセージだった。


智也︰今日は本当にありがとう!映画もその後の時間も楽しかったです!明日は俺に任せてね!


 すずは画面を見つめて、静かに微笑んだ。


「智也君と出会ってから、こんなにも充実するなんて、ちょっと怖いかも」


 夜の静けさの中、すずの胸の奥には、昨日の映画と明日のキャンプへの期待がふんわりと重なっていた。



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