つまり私の望む奥様は
ブンデンベルク辺境伯領領主の館にある大広間では今まさに宴会の準備が進められていた。
天井付近では、ふわふわ、ひらひらと色鮮やかな蝶の翅が舞う。
「ネイサン! この天井飾りの端を持って、あのあたりから垂らしてもらえるかしら?」
「うん、いいよ! よいしょ……こんな感じ?」
「ええ、素敵だわ。屋内に飾りつけするときは蝶の翅がとっても便利なのね!」
「そうだよ、高くは飛べない代わりに緩急をつけて狭い場所を飛ぶのは得意なんだ! ってあれ、マイラは?」
「今、奥様にお花を渡す練習中なの」
「上手にできそう?」
「ええ、とても上手なのよ! それにね、とっても可愛いの。あとでいっぱい褒めてあげてね?」
「うんわかった! 宴会っていうの、参加するのはじめてだからとても楽しみだな!」
「じゃあ早く終わらせるために花を飾るのを手伝ってちょうだい。飾る花がまだまだたくさん残っているのよ」
「うん、任せて!」
チューリップにマーガレット、アザレアにシネラリアにフリージア。
辺境伯領では今、ちょっとした騒動が起きていた。
辺境伯領には咲かない春の花が、領地のあちらこちらで咲き誇っていたのだ。
はじめて見る色鮮やかな花々に人々は熱狂した。
かわいい、それにとても美しい!
まるで今日の宴を彩るために季節を違えて咲いたかのようだと人々は噂した。
白精霊師は豊穣と慈愛の女神の使いと言い伝えられており、この女神は春を司る。
季節外れの開花は女神のおこした奇跡に違いない!
誰よりも美しく、勇敢で心優しい白精霊師への贈り物だと歓喜した。
彼女は凍てつくような冬の寒さを持つ辺境の地を溶かすために使わされた春の使者……蝶のようだ、と。
美しく咲いた花はお祝いとして続々と城に届けられた。
人々の熱狂に包まれて、花に満たされた宴の準備は滞りなく進んでいく。
そして、そのころのハンナは呆然と立ち尽くしていた。
この混沌は一体なんなのだろうか、と。
「よいですか、完璧というのは今のハンナさんのような状態を指すのです! これ以外を完璧と称するのは、神が許してもこのテレジアは許しませんよ!」
「かしこまりました!」
「この領域へ達したこの方は、もうハンナさんではありません、これからはハンナ様と呼ぶのです! 皆のもの、よいですか!」
「了解です!」
いや、絶対おかしい。
どこからツッコんだらいいかわからないくらいにおかしいが過ぎる。
鬼気迫る顔で振り向いたテレジアさんと視線が合った。
「ハンナ様も、いいですね!」
「いや、でもですね……」
「これについては、はい以外の返事は認めません!」
「あ、はい」
どうしよう、怖くてハイとか言っちゃったよ!
たしかに心の中で勝手に侍女軍団とか呼んでたけどさ、アレク様率いる正規軍並みに命令系統が完璧とか逆に怖いのだけど?
ねえ、淑女教育の成果とかどこいったの?
私の先生はテレジアさんなんだよ?
日頃、厳しく躾けられているあの淑やかさとか優雅さとかが完全に強さに飲み込まれているよ?
というか身分の高い女性は使用人風情に敬称はつけちゃダメなんだよね?
「さあ、もう一度鏡を見てご自身の完璧具合を確認なさってください」
兵士長……あ、間違えた、テレジアさんに促されるまま、姿見に映る自分の姿を確認する。
それにしても、美しいドレスだわ。
スレンダーラインという体に沿う形のドレスで、ベースの色は薄い青。
裾には金糸で花の刺繍とレースが品よく添えられている。
ネックレスとイヤリングは金地にダイヤモンド、さりげなく大粒のアクアマリンが飾られていた。
飛行術式を使って移動することもあるからと、庶民の着るようなワンピースでさえ滅多に身につけたことのなかった私には、そもそもドレスの裾をさばくという行為の難易度がとても高かった。
さらに、かかとの高い靴を履いてダンスを踊るなんて今思うと挫けずよくがんばったと自分を褒めてあげたい。
アレク様が練習するのを手伝うという名目だったのだけれど、あれは絶対私への嫌がらせだと思うの。
アレク様にはよく笑われたものね。
とはいえ私と踊っているときのアレク様はいつも楽しそうだったから、まあいいかなとは思うけれど……。
普段は一つに結んでいるだけのことが多い髪も、ドレスに合わせて複雑な形状に結い上げられ、ネックレスやイヤリングと同じ意匠の髪飾りが添えられていた。
ここにも雫型のアクアマリンが飾られているのだけれど、どこかで見た色合いのように思える。
そして、お化粧なのだけれど……。
「まさか今まで化粧品をお使いでないとは思いませんでしたわ」
「普段はローブのフードをかぶっていることが多いので、気にしたことがありませんでした」
テレジアさんを筆頭とした侍女軍団が困った顔でそろってため息をつく。
翼人の国ではお化粧なんてしたことがなかったし、地上に降りてきてからはローブのフードをかぶっていた。
正直にいうと怒られそうだから言わないけれど化粧用品自体を見かけたかどうかすら怪しいです。
「……今後は美容面の講義も取り入れましょう」
「よろしくお願いします」
黙っていれば余計にバレますよね。
そこはおとなしく承っておきます。
すると侍女軍団の一人が頬に手を当てながら言った。
「日焼け対策もなさらないのに、シミがひとつもないなんてうらやましいですわ」
「シミって、顔にできる茶色い小さな模様のことですよね? あれ消せますよ?」
「…………え、ええええっ!」
すると、その場にいる全員がきれいにハモった。
そして食いつかんばかりに詰め寄られる。
「ど、どうやるのですか? やっぱり白の精霊術ですか⁉︎」
「はい、浄化の一種ですね」
そして軽く指先で目の前にいた侍女さんの肌に触れる。
彼女の顔にあった小さな茶色いシミがスッと消えた。
声に出して祝福を与えると効果が強すぎるので、心の中でだけ優しくささやくのが肝心です。
沈黙が落ち、次の瞬間、自分の顔を鏡で見た侍女さんの歓喜の雄叫びが屋内に響き渡る。
「きゃあああああ! 長い間私を苦しめた憎き敵が滅したわ!」
「おめでとうございます! ただこれをやりすぎると肌の色が浄化した部分としない部分でまばらになるので、美容液?のように効果を付与した水を顔全体へ塗布して広範囲にわたって使用されるやり方をおすすめします」
浄化の効果を水に付与して呪術薬にするということですね。
もちろん使いすぎてもよくありませんが、たまに使うなら問題ないでしょう。
使い続けながら徐々にシミを薄くしていくという感覚です。
そう説明すると、突然、テレジアさんと侍女軍団が一斉にひざまづいたのだ。
「ハンナ様!」
「はいっ!」
「私達はあなたの僕、死ぬまで忠誠を誓います!」
……そして忠実な僕にシミを滅する美容液を!
心の声が口から出てますが大丈夫ですか?
嬉しいけれど重いわ。
そして一字一句ずれることなく声がそろうってどういうこと?
私を見つめるテレジアさん達の瞳がキラキラと輝いている。
そんなにシミが憎かったと言うことね、その気持ちはよくわかります。
でもね何度も言うけれどあなた達は身分が上だから、普通に『ください』って言えば心を込めて献上するわよ。
こうしてあわただしく準備が終わったところで、客間にノックの音が響く。
テレジアさんが許可を出すとゆっくり扉が開いた。
「準備は終わった?」
「はい。侍女一同、ハンナ様に忠誠を誓ったところです」
「さすがだね、早々に侍女の心を掴んだということかな」
「いえ私というよりは……」
心を掴んだのは美容液ですと言おうとしたのに最後まで言えなくなってしまった。
目の前に、正装したアレク様が立っている。
軍服の色は黒で胸元には徽章が輝いていた。
そして豪奢なマントを羽織り、肩にはマントを止める金の星のような意匠の飾りと金の飾り紐が添えられている。
式典用の帯剣も鞘は黒地に金の装飾がされている。
髪を香油で撫でつけて後ろに流しているから、美貌がより際立ち、かっこいいが三割増だ。
……素敵すぎて直視できないわ。
そしてアレク様もまた、私を見つめたまま言葉を失っている。
何か気になるところがあるのかしら?
「どうしました、アレク様?」
怪訝そうな私の声を聞いたアレク様が、ハッとした表情を浮かべて頬を赤らめた。
それから優しい微笑みを浮かべると、とろけるような眼差しで目を細めた。
「想像を超えるくらいにきれいで、言葉にできなかった。完璧だよ、ハンナ。君は私の知る誰よりも美しい」
「嬉しいです。その……アレク様もとても素敵です。完璧という言葉は今のアレク様のためにあると思います」
そう答えて頬を赤らめた私の手に彼は口づけを落とした。
王子様、降臨。
自然体で褒めたうえに、こういう仕草ができるのはさすがです。
傍で見守る侍女軍団は感嘆したようなため息をこぼした。
テレジアさんは至極満足そうな微笑みを浮かべている。
「私の認識には誤りがあったようですね。お二人がこうして並ぶ姿こそが完璧です」
それから表情をあらためて、皆が一糸乱れぬ仕草で頭を下げた。
夢見心地でアレク様に手を引かれて、客間を退出する。
「楽しい時間をお過ごしくださいませ」
送り出すテレジアさんの声を最後に、静かに扉が閉まった。
赤い絨毯の敷かれた回廊をゆったりとした足取りで歩く。
「アレク様、美しいドレスや装飾品を贈ってくださってありがとうございます」
「どうして私からだってわかるの?」
「だってアレク様の色でしたから」
金と、空の青だ。
こうしてアレク様自身と並べてみればとてもよくわかる。
そんな貴重な色を私が身につけていいのかしら?
「アレク様、そろそろこれから何があるのかお伺いしたいのですが?」
「君の誕生日のお祝いだよ」
「……あ、そういえば!」
「当日は君が寝ている間に過ぎてしまったから、ずらして今日になった。……驚いた?」
「はい、驚きました! でも嬉しいです!」
わざと黙っていたのね!
私にはレンカの誕生日とは別にハンナとしての誕生日があった。
レンカの誕生日はけっこう前に終わってしまったけれど、ハンナの誕生日はひと月まえで日付は今日と同じ。
今の両親と出会った日が、ハンナの誕生日だ。
視線をあげれば、廊下にまできれいな花がたくさん飾られている。
このたくさんの春の花が誕生日の贈り物ということね!
どれも辺境伯領には咲かない花ばかりだ。
それをまだ寒さの残るこの時期に、これだけたくさんの花を集めるのは大変だっただろう。
覚えていてくれただけでなく、こんなふうに祝ってくれる気持ちが何よりも嬉しい。
このドレスも、飾られた贈り物の花も。
アレク様が許可をだしたからこそ実現したことだ。
好きだと、ちゃんと言おう。
諦めなくてはいけない思いでも、伝えたらきっと前に進める。
私は覚悟を決めて顔を上げた。
「アレク様、聞いていただきたいことがあるのです」
「そのまえに私からも話しておきたいことがある、先に聞いてくれないかな?」
宴の開場まではまだ少し時間があるとのことだった。
私だって聞きたいことがたくさんある。
でも一瞬迷ったあとに、はいと答えた。
緊張のせいか、アレク様はエスコートする手にわずかばかり力をこめた。
「君のおかげでこの地は黒精霊師による破壊の力から守られた。辺境伯領がかつてない危機にみまわれた、そのときに君が隣にいるという奇跡を与えてくれた太古の神々に深く感謝している」
「もったいないお言葉です」
「本来なら、翼人である君と人である私の道が交わることはなかった。それなのに君はいくつもの奇跡を起こして、いつのまにか私にとってなくてはならない人になっていたね。誰かの手を必要だと思う日がくるなんて思ってもいなかった傲慢な私に足りないものが何かを教えてくれた。欠けた部分を埋めるかのように、いついかなるときも希望と新たな可能性を示してくれる。ハンナは私にとって救い手であり、闇夜を照らす導きの星だ」
繋いでいないほうのアレク様の指先が、マントを止める星型の留め金にそっと触れる。
私は嬉しくなって頬をゆるめた。
この言葉が聞きたくて、いままでずっとがんばってきたのだから。
一方で、子供みたいに喜ぶハンナの顔を眩しく思うアレクは、その先の言葉をためらうように深く息を吐いた。
もしアレクが白精霊師の力を備えていたとしたら身分も立場も関係なく誰に止められても自らが戦うだろう。
戦うべきは白精霊師、そんなことはわかっている。
それでも……。
「大切な君に命をかけさせた。……守ると約束したのに、すまない」
これが儀礼的な謝罪なら受け流せるのに。
いかなるときも最前線に立ち続け、金の獅子とまで呼ばれるようになった男性の背中を見続けたハンナには、この絞り出したような言葉が彼の本音だとわかってしまった。
容姿は王子様みたいに煌びやかなのに、口が悪くて面白そうだとしゃしゃり出ては部下を翻弄する困った人。
けれど、自分に厳しく努力家で責任感の強い人でもある。
困ったな、ここは謝ってほしいところじゃないのに。
「アレク様、そういうときは『ありがとう』っていうものですよ!」
「……ハンナ?」
「言ったではないですか、あなたの隣に並ぶのが私の目標だと。たった一人でたくさんのものを背負っているアレク様が頼りにできる存在に私はなりたいのです」
「君はどうして、そこまで私を」
「私に正しい知識と力を使う術を与えてくれたのはアレク様です。役立たずではないとずっと信じてくれて、私の名誉を取り戻す機会を与えてくれました。それだけでも十分な理由ではありませんか?」
「だが君を保護した理由は綺麗事ばかりではない。それを知ってもなお、君はそう思えるのか?」
精霊師を欲した辺境伯領とアレク様。
彼らの目の前に、なんの予備知識もない、まっさらな状態で私が降って湧いたかのように姿を現したのだ。
逃すまいとあらゆる手をこうじて囲い込もうとするのは当然だろう。
囲い込むために彼らは新たな選択肢に繋がるような情報を遮断し、私が進む道は精霊師一本しかないと指し示した。
そのうえで容易には返せない金額の資金を投じ、権力を使ってまで学校を卒業させたのだ。
そこに私の意志は存在していないのだからルオの指摘はあながち的外れというわけでもない。
まあ知識を得た今はそれも仕方のないことと思えるけれどね。
遅かれ早かれ、精霊師に適した資質が明らかになれば国や貴族によって囲い込まれていただろう。
そこにあるのはアレク様か、もしくはアレク様以外の誰かに囲い込まれたかという違いだけ。
翼人の国とは世界の広さが違うのだもの。
アレク様と私は、生まれも違えば、立場や育ってきた環境も違う。
彼に見えているものが私には見えないように、私が見えているものが同じように彼に見えているとも限らない。
「言わずとも全てを察しろというのは、とても傲慢なことだとアレク様は教えてくださいました。それを思い出したので、ちゃんと言葉にしますね」
言わなかったのは、答えを聞きたくなかったから。
こんなに大切にされては、いつか愛されていると勘違いしてしまう。
だから思い違いをするまえに聞いておきたいと思ったのだ。
奥様になるお嬢様はどなたですか、と。
だけど、どういうわけか最近よく見かけるようになったアレク様の素の顔が目の前にあった。
しかもずいぶんと焦っている。
「ちょっと待って!」
「……っと、いいですよ?」
「それは私の口から先に言わせて欲しい」
たぶん雇い主としての義務を果たしたいということなのだろう。
小さくうなずいて、彼の言葉を待った。
アレク様は私の両手をにぎると緊張した面持ちで視線を合わせる。
「あの日のやり直しをさせてもらいたい」
「何のやり直しですか?」
「私は心から君を愛している」
「そ、それは……」
「とにかく待って、今は最後まで聞いて欲しい」
その言葉は奥様に伝えるべきものだ。
だけどアレク様に困ったような顔でさえぎられては口をつぐむしかなかった。
「自分が翼人であることを君が話してくれたときに私は言ったよね。辺境の地には、君のように自身の誇りを守るために戦う者こそ相応しいと。そして驕ることなく努力を重ねる君を尊敬するし、女性として愛おしく思わないわけがないともね、覚えている?」
「はい、覚えています……」
「私には気が強くとも君のほがらかで心優しい性格が好ましい。煌めく星を宿した黒い瞳も漆黒の闇夜を思わせる滑らかな髪も好きだ。整った顔立ちは優美で、白く柔らかな肌にはどうしても触れずにはいられなくなる。そのうえ君は精霊師として自分よりも高い資質をその身に宿していた。そんな理想を絵にしたような女性が目の前にいて、好きにならないでいられると思う?」
なんだ、この口説き文句の行列は。
今、何かものすごい勢いで口説かれてはいないだろうか?
愛おしいとばかりに、甘く囁かれる賛辞は私の意識を彼方へ飛ばすのに十分な威力だった。
普段のアレク様は女性をあしらうのが上手いタイプで、不名誉な噂を立てられないように適当にあしらい、不敬とされないギリギリの距離を保っている。
たぶんあれは女性不信からくる努力の賜物なのだろう。
もちろん他の使用人からもアレク様が女性を口説いたなんて話は聞いたことがない。
それなのになんだ、このダダ漏れている愛情は?
こんなふうに迫られて、落ちない女性なんているのだろうか?
「でででも、アレク様には」
「とにかく最後まで聞いて。あとで君の気持ちもちゃんと全部聞くから」
また言葉をさえぎられた。
どうやら先走る傾向のある私が思い違いをすることがないよう、言いたいことは全部言うつもりらしい。
思い当たる節しかない私は、仕方ないのでもう一度きつく口を閉じた。
「君が私との身分の差を気にしていることは気がついていた。それだけでなく翼人の国では親しくしていた人間から裏切られて深く傷ついていることも知っている。だから君を手に入れるだけでなく、ずっとそばにいてもらうには愛だけでは足りないと考えた」
「愛だけでは、足りない?」
「そう、愛しているという言葉だけで君を私に縛り付けるのは誠実ではない。共に愛し愛されるには何よりも愛を育むための土壌が必要だと思う。それがなくては、どれほど深い愛だって育つことなく枯れてしまうだろう。蝶が翅を休める草花を求めるように、君が自分を殺すことなく安心して身を委ねることのできる環境を作りたかった。そのためにはただ漫然と繰り返し愛を囁くより、明確に君の居場所と存在意義をいち早く示してからにしようと思った」
「そこまで考えていたのですか?」
呆然として、言葉を失う。
居場所と、存在意義。
それは私が翼人の国で得られなかったものだ。
そして名前を捨て、人として生きることで得ようとしたもの。
土壌なくして愛は育たないから。
アレク様が私を愛していると言わなかった理由。
それがまさか愛のためだとは、思いもしなかった。
「ここまで言えばなんとなく察してもらえるだろうけれど、ようやく土壌が整った」
「……!」
「やっと言える。どうか君の居場所を辺境伯領に。そして私のただ一人の妻として隣にいて欲しい」
余裕を失った私とは対照的にアレク様はほっとしたような晴れやかな微笑みを浮かべた。
それから、優しい手つきで私の頬に手を添える。
私の顔が上向いて、視界に天の色が広がった。
「つまり私の望む奥様は君だということだよ」
そんなバカな。
想定もしていなかった展開に、理解が追いついていかない。
どこをどうすれば私が奥様に?
「さあ、今度は君の言葉を聞こうか。もちろん君の異論や反論を全て円満に解決できる自信はあるよ?」
言っただろう、君を私のものにって。
アレク様はあのときと同じ挑むような眼差しで口角を引き上げた。
その自信はどこからくるの?
謎は深まるばかりだ。
もう少し続きます。お楽しみいただけるとうれしいです!




