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26.対抗戦 その4



 ワンストライク!


 次はどうする。キャッチャー拓馬のサインをのぞき込む。もう一球おなじボールか。そうだな、バッターも驚いていたし、もう少し見せてやろう。……よし! 空振り。


 三球目。めんどくさい。おなじのをもう一球だ! 三振!


 どうだぁ!


 おもわずマウンドでガッツポーズがでた。内野の連中も祝福してくれる。つい、自分でもまったく意識しないまま、視線が西高ベンチに向いた。潤一の姿を捜した。潤一の顔が、まるで自分のことのように微笑み、拍手してくれるのをみて、俺も笑ってしまった。おまえ、敵である俺の活躍に拍手してちゃダメだろう。でも、……ありがとうよ。





 さぁ、ふたりめ。


 初球、内角のストレートで身体を起こさせる。


 二球目はスライダ。内野ゴロを狙ったものだが、バッターの腰が引けすぎて空振りとなった。


 ならば、三振を取ってやろう。三球目は、……チェンジアップでどうだ?


 チェンジアップといいつつも、実態はストレートとほぼ同じフォームからの山なり超スローボール。わずかに揺れながら、ゆるやかに曲がってストライクコースに落ちてくる。


 あまりのヘロヘロボールを、あぜんとした表情で見送るバッター。そうだろう、そうだろう。あのストレートの後でいきなりこんなボールがきたら、そりゃびっくりするよな。気持ちはわかるぞ。


 ストラーイク、バッターアウト。


 三振!


 おお、俺のチェンジアップにスタンドの観客のみなさまが沸いている。拍手喝采。大うけだ。夢実みたいなちっちゃな女の子がスローボールで男子から三振をとるってのは、見てる方から見ればそりゃ痛快だろう。投げてる俺も気持ちいいもん。


 これで二者連続三振。いける? もしかして俺、いけるんじゃない?





 そう。いけたのだ。


 俺の投球は、その後の二イニングに限れば、なんとかかんとか通じてしまったのだ。浮き上がるストレートと、ほぼ同じ速度から横に滑るスライダ、そして山なりヘロヘロチェンジアップを適当にまぜ、丁寧にコーナーに投げ分けてやるだけで、西高のバッター達は面白いように空振りしてくれた。


 もちろん拓馬のリードを忘れちゃいけない。バッターの打つ気をそらす絶妙な配球は、投げている俺も舌を巻くほどだ。


 夢中で投げているうちに、いつのまにか最終回。九回表ツーアウト。バッターボックスで微笑んでいるのは、宿敵(この試合中限定)である琴似潤一だ。


 俺がここまで相対したバッターは八人。三振五つに内野フライひとつに内野ゴロがふたつ。なんと出塁はゼロ。


 上等。まぐれだとしても出来すぎだ。でも、さすがに疲れてきたぞ。こんなに沢山のボールを本気で投げたのは初めてだ。すでに息があがっている。肩も肘も手首も、そして指先ももう限界だ。


 そんな俺を前にして、潤一の奴は穏やかに微笑んでいる。こいつ、俺のボールをなめているのか? それとも、俺がそれなりに投げられているのを見て、純粋に喜んでくれているのか?





 美香保学園キャッチャーの南郷拓馬は、マスク越しにピッチャー夢実をあらためて凝視する。相変わらずお人形さんのような外見の少女。正直言ってあまりユニフォームはあまり似合っていないが、しかしそのアンマッチに萌えるのも事実だ。


 い、いや、そんなことはどうでもいい。とにかく、ここまでの夢実は出来すぎだ。だが、それももう限界だろう。


 マウンド上の夢実は、肩で息をしている。ここまでの投球数は約三十球。そろそろガス欠だ。もともと速くない球速だが、ここにきてますます速度が落ちてきた。夢実のフォームは、身体が小さくてもそれなりのボールを効率的に投げることができるが、決してパワーが必要ないというわけではない。特に握力や下半身の筋力については、かえって負担が大きいくらいだ。


 夢実の握力はもう限界だ。ボールの切れもない。速度も出ない。実際、このイニングに入ってから、三振がとれていない。内野ゴロがふたつ続いている。すでにストレートはほとんどホップしていない。ただの棒球だ。ヒットにならなかったのは、交代直後の投球のインパクトが打者の頭に残っていたこと、そして運が良かったせいにすぎない。


 九人目のバッターは、あいつだ。西高エース、琴似潤一。こいつはピッチングに関しては間違いなく全国レベル、超高校級のエースだが、ここまでの打席を見る限り打撃の方はたいしたことがない。春先に夢実と一緒に事故に遭ったとかで、それいらいほとんど打撃練習はしていないのだろう。


 だから、なんとしてでも、こいつで終わらせてやる。格好悪い三振で締めくくってやる。


 ……ていうか、こいつ、他校のくせに妙に夢実となれなれしいんだよな。同じマンションに住んでいるとか、いっしょに秘密特訓やランニングしているとかの噂も聞く。ただの庶民のくせに、白石家の娘と釣り合う男だと自分で思っているのか? 身の程を教えてやる。



 

 

 次話以降は二〜三日に一回の更新になると思います。これからも、よろしくお願いいたします。


2016.01.11 初出

 


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