第94話 夜明けの王都
修復の儀が行われた夜、王都は静かだった。
王国はまだ完全には立ち直っていない。
それでも、崩壊から生き延びた人々が少しずつ瓦礫を片づけ、仮設の灯りを灯し始めていた。
俺たちは観測台跡から遠くその気配を感じていた。
職業の海が、少しずつ落ち着いていく。
揺らぎが減っていく。
王国が上書きした歪みが、ゆっくりほどけていく。
「……できた?」
玲奈が小さく言う。
「まだ完全じゃない」
フィリアが術式板を見つめる。
「でも、流れは戻った」
俺は地面に手をついたまま、荒い息を整えていた。
今回もきつかった。
中枢の時より静かだが、広い。深い。
職業の海全体へ触れるような感覚は、自分の輪郭まで薄くなりそうで怖かった。
「コーイチ」
ルナがすぐ隣にしゃがみ込む。
「いる?」
「いるよ」
「ほんと?」
「たぶんな」
そう返すと、ルナが少しだけ安心した顔をした。
夜明けが来る。
東の空が白み始める。
「王都、見える?」
美咲さんが遠くを見ながら言う。
ここからは小さくしか見えない。
それでも、瓦礫の向こうに新しい朝が差していくのは分かった。
「……夜明けだな」
俺が呟くと、大雅が肩を回しながら笑った。
「長い夜だったな、ほんとに」
王国の嘘。
召喚の禁忌。
裂けた世界。
その全部を越えて、ようやく来た朝だった。
夜明けの王都は、もう以前の王都ではない。
でもだからこそ、ここから変われるのかもしれない。




