第93話 新しい理
修復の鍵は、王国が使った召喚中枢の残骸ではなく、その奥にあった。
フィリアの解析によれば、中枢は“理へ干渉するための楔”に過ぎない。
本当に必要なのは、歪んだ接続を一度ほどき、自然な流れへ戻すための基点だという。
「つまり?」
俺が聞く。
「職業の海に対して、“王国が上書きしたものではない新しい基準”を示す必要がある」
フィリアが言う。
「命令や支配じゃなく、選択と循環を中心にした理」
難しい話だが、感覚は分かった。
王国の理は、国家のために人を固定し、使い、縛るものだった。
ならその逆。
人が選び、人が役割を循環させる形に戻す。
「新しい理、ってことか」
俺が呟くと、フィリアは頷く。
「ええ。正確には“本来の流れに近い形へ再設定する”」
「そんなの、できるんですか」
玲奈が半信半疑で言う。
「できるかどうかじゃない。やるの」
フィリアは珍しく強かった。
そのための場として選ばれたのは、王都ではなくアストラ近郊の古代観測台跡だった。
王国の支配から遠く、古い理の痕跡が最も濃く残る場所。
「王都じゃないんだな」
大雅が言う。
「王都は王国の理に汚染されすぎてる」
フィリアが答える。
「やるなら、もっと中立に近い場所」
準備は進む。
フィリアが術式を組み、
美咲さんが補助結界を整え、
玲奈が周辺警戒線を張り、
ルナと大雅が外縁を守る。
そして俺は、空位の器で接続する。
「先輩」
玲奈が少し緊張した顔で言う。
「もしこれで、本当に世界の理が変わったら」
「変えるんじゃない」
俺は答えた。
「戻すんだよ。俺たちが勝手にいじるんじゃなくて」
その返答に、美咲さんが少しだけ微笑んだ。
「あなたらしいわね」
新しい理。
それは支配のためじゃない。
世界を、誰か一人の都合から取り戻すためのものだ。




