第92話 選ぶもの
世界の理に手を入れる。
そんな話になれば、誰だって尻込みする。
実際、その夜の倉庫は妙に静かだった。
「やるしかない、とは思う」
玲奈が言う。
「でも、どうやって?」
「そこよね」
美咲さんも頷く。
「理を修復するなんて、王国の術者でもできなかったことだもの」
視線が自然と俺に集まる。
居心地が悪い。
「俺だって分かってるわけじゃないぞ」
「でも、一番近いのはコーイチ」
ルナが即答する。
それも分かっていた。
空位の器は、職業の海と接続できる。
中枢を閉じた時も、理を“空へ返す”感覚があった。
なら、今度もきっと俺が中心になる。
「でも」
俺は少しだけ言いよどむ。
「これ、下手したら俺の方が壊れる」
そう。そこが一番現実的な問題だ。
器は受け入れる。
だが世界規模の揺らぎなんて、受け止めきれる保証がない。
少しの沈黙のあと、美咲さんが静かに言った。
「それでも、あなたが選ぶなら支える」
「私も」
玲奈が続く。
「一人で背負わせません」
大雅も肩をすくめた。
「ここまで来て、今さら逃げるのも後味悪いしな」
「ルナは最初からいる」
短い言葉。
その返答に、少しだけ笑ってしまう。
結局、選ぶのは俺だ。
王国に捨てられた無職として終わるか。
空位の器を持つ修復者として進むか。
「……やる」
俺は言った。
「選ぶよ。壊れた理を放っておきたくない」
誰かのため、だけじゃない。
俺自身が、もう見て見ぬふりをしたくなかった。
「それでいい」
フィリアが頷く。
「なら次は、“どう直すか”を詰めるだけ」
選ぶもの。
その言葉通り、ここから先は誰かに押しつけられた役割じゃない。
俺自身の選択だった。




