第91話 書き換えられた理
アストラへ戻ってから数日、フィリアはほとんど寝ていなかった。
旧神殿、廃鉱区、王城中枢から持ち出した資料。その全部を突き合わせて、彼女はようやく一つの結論に辿り着いたらしい。
「王国は、召喚術を使っただけじゃない」
彼女は机に資料を並べながら言う。
「この世界の“職業の理”そのものに手を入れ始めていた」
俺は眉をひそめる。
「そこまでできるのか」
「完全には無理。でも、局所的な上書きはできる。召喚中枢がその楔だったのよ」
美咲さんが静かに資料を見下ろす。
「だから精神補正も、適合率の操作も可能だったのね」
「ええ。本来は自然に与えられるはずの職業を、国家都合で偏らせていた」
玲奈が吐き捨てるように言う。
「ほんと、どこまでやれば気が済むんだか」
だが問題は、王国がそれを始めてしまったこと自体だった。
中枢は止めた。裂け目も閉じた。
それでも、一度書き換えられた理は完全には元に戻っていない。
「各地で軽い職業不全が起き始めてる」
サニアが別筋の報告書を差し出す。
「突然、技能の精度が落ちる職人。祈りが届きにくい神官。逆に、妙に力が過剰化した兵士もいる」
「……後遺症か」
俺が言う。
「そう」
フィリアは頷く。
「王国は理を歪めた。その揺り戻しが来てる」
王国を暴いた。それで終わりだと思っていた。
でも違う。
壊された理は、王国一国だけの問題じゃなくなっている。
「つまり」
大雅が腕を組む。
「最後に相手しなきゃいけねえのは、王国そのものじゃなくて――」
「歪められた世界の仕組み、ってことだな」
俺が引き取る。
フィリアが珍しく真顔で頷いた。
「ええ。ここから先は、犯人探しじゃない。修復よ」
修復者。
その呼び名が、また胸の奥で重く響いた。




