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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第2章 無職、冒険者になる

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第9話 能力検証

 翌朝、俺とルナはラドスへ戻った。


 さすがに森の中でずっと過ごすのは無理だし、追手を振り切るにも情報と物資が必要だったからだ。ルナは人目を嫌がったが、町外れの廃屋ならしばらく身を潜められるとガレスが教えてくれた。


「まーた妙なの拾ってきやがったな」


 廃屋へ案内してくれたガレスは、ルナを見るなりそんなことを言った。

 けれど追い返しはしない。


「獣人のガキか。面倒抱えたな」

「分かってます」

「分かってねえ顔だな」


 その通りかもしれない。


 俺はガレスに事情をかいつまんで説明した。

 奴隷商に追われていたこと、森で助けたこと、しばらく匿いたいこと。


 ガレスは面倒そうに頭をかいたが、最後には「好きにしろ」とだけ言った。


「ただし町中へ連れ歩くな。余計な火種になる」

「ありがとう」

「礼より生き残れ」


 ぶっきらぼうなまま去っていく背中を見送り、俺は改めて廃屋の中を見回した。


 壁はひび割れ、床は軋む。

 だが雨風はしのげるし、人目も少ない。


「ここ、つかう?」

 ルナが耳を動かしながら聞く。

「ああ。今の俺たちには十分だ」

「……へんなひと」

「それ、口癖なのか?」

「うん」


 ちょっとだけ嬉しそうに言われると複雑だった。


 ひとまず落ち着いたところで、俺たちは能力の検証を始めることにした。


「ちゃんと知っとかないと、次に死ぬ」

 ルナが真顔で言う。

「その通りだ」


 まず確認したかったのは三つ。

 一つ、触れて得た力はどれくらい残るのか。

 二つ、複数を同時に使えるのか。

 三つ、強い力ほど制限があるのか。


「じゃあ、もう一回」


 ルナが腕を差し出す。

 俺はそこへ軽く触れた。


 すぐに、月牙闘士の感覚が流れ込む。

 前日より少しだけ馴染みやすい気がした。


「前より速く入るな……」

「のこってる?」

「少しは」


 どうやら、一度写した感覚は完全には消えないらしい。

 時間とともに薄れるのか、それとも定着するのかはまだ不明だが、少なくとも毎回ゼロからではなさそうだ。


 次に、ガレスから得た野外知識と合わせてみる。

 廃屋の中を静かに歩き、足音を消す意識をすると、月牙闘士の軽い踏み込みと冒険者由来の気配の殺し方が自然に噛み合った。


「……使える」

「どう?」

「同時にできる。完全じゃないけど」


 つまり、複数保持も可能。


 だが万能ではなかった。

 ルナの身体能力を写せても、元の筋力や体格が同じになるわけじゃない。あくまで動かし方の最適化に近い。だから無茶をすると自分の身体がついてこない。


「今のコーイチ、ちょっと足ふらついてる」

「やっぱり?」

「うん。ルナほどは、まだできない」


 その指摘は正しい。

 イメージ通りに身体を使おうとすると、筋肉や関節に無理がかかる感覚がある。


「つまり、強い力ほど扱いが難しい」

「ルナの職業、つよい」

「自覚あるんだな」

「ある」


 即答だった。


 少しずつ、ルナが可笑しくなってくる。


 次に試したのは、接触の長さだった。

 軽く触れるだけでも感覚は来るが、長く触れた方が情報量が多い気がする。逆に、遠くから見ているだけで得られるものはごくわずかだ。ガレスの時に感じたのは、経験の“雰囲気”を読み取った程度なのだろう。


「やっぱり、ちゃんと触る必要があるな」

「手?」

「手じゃなくても、たぶん接触なら何でも」

「じゃあ、ぶつかっただけでも?」

「……多分」


 だとしたら、かなり危険でもある。

 人混みで無意識に色々拾う可能性すらある。


「これ、誰にも言えないな」

「言わないほうがいい」

「だよな」


 ルナは真剣に頷いた。


「奪う力って、こわがられる」

「ガレスも似たこと言ってた」

「ルナも、ちょっとこわい」

「正直だな」

「でも、コーイチはいやじゃない」

「……そりゃどうも」


 その言葉は、意外なくらい胸に沁みた。


 王国では異常扱いされた。

 ギルドでも珍獣みたいに見られた。

 けれど、ルナは怖いと言いながらも、俺そのものを拒絶はしなかった。


 検証を続けるうち、もう一つ分かったことがある。


 戦闘系の感覚は分かりやすいが、それ以外の“技能”も来る。

 ガレスからは気配察知や野営知識。盗賊崩れからは短剣や荒事のコツ。これなら、戦う以外にも応用できるかもしれない。


「職業そのものを奪うんじゃなくて、職業に紐づいた技能や感覚を写してる……のか?」

「難しいこと言ってる」

「俺も整理してる途中だ」


 昼過ぎまで検証を続けた頃には、さすがに疲労が溜まっていた。


 廃屋の壁にもたれ、俺は天井を見上げる。


「……何とかなるかもしれない」

「うん」

「でも何とかするしかないんだよな」

「うん」


 ルナは短く返事をして、俺の隣に座った。


「コーイチ」

「なんだ」

「ルナ、助けられた。だから、少し手伝う」

「少し、なのか」

「いっぱいかも」


 そう言って、彼女は少しだけ笑った。


 その時だった。


 指先に、かすかな熱が走る。


「……?」

「どうした?」


 自分の手を見る。

 さっきルナを支える時に触れたままだった。


 頭の奥に、言葉のようなものが浮かぶ。


 《月牙闘士》の断片を取得しました。


「は……?」

「コーイチ?」


 ルナが不安そうに覗き込む。


 今のは何だ。

 声じゃない。頭の中に直接意味だけが流れ込んできた。


「……取得、した?」

「なにを」

「職業の、断片?」


 口にした瞬間、自分で鳥肌が立った。


 やっぱりこの力は、ただの“なんとなく使える”じゃない。

 もっとはっきりした、職業そのものに触れる異常だ。


 王国の鑑定に出なかった理由が、少しだけ分かった気がした。


 こんなものが見えたら、あいつらがどう反応したか。

 考えるまでもない。


 俺はゆっくり拳を握った。


 異世界で、職業なし。

 けれど本当は、職業の外側にいるのかもしれない。


 そう思った瞬間、少しだけ笑えてきた。


 ひどい話だ。

 でも、悪くない。

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