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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第2章 無職、冒険者になる

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第10話 初めての討伐依頼

「採集依頼だけじゃ食えねえぞ」


 翌日、ギルドで顔を合わせたガレスに開口一番そう言われた。


「分かってます」

「分かってる顔じゃねえな」

「顔で判断しないでください」

「冒険者は顔で半分分かる」


 そんなものなのか。


 俺は掲示板を見上げた。

 低ランク向け依頼の中に、魔物討伐の札が混じっている。


 牙犬三匹の討伐。報酬:銀貨六枚。


「これ……どう思います」

 俺が指すと、ガレスは一瞥した。

「初心者向けじゃある。だが初心者殺しでもあるな」

「どっちですか」

「群れるからだ。単体なら雑魚、三匹だと油断した新米が食われる」


 なるほど、嫌な依頼だ。


 だが報酬は大きい。

 採集の倍以上ある。


「受けるつもりか」

「……はい」

「連れは」

「います」

「獣人のガキか」

「名前はルナです」

「知るか」


 相変わらずだ。


 でも、止めはしなかった。

 それはつまり、無謀ではあるが不可能ではないということだろう。


「一つだけ忠告だ」

「なんです」

「勝てる相手と、死なない相手は違う」

「……肝に銘じます」


 依頼を受けた俺は、町外れの廃屋へ戻ってルナに話した。


「牙犬?」

「知ってるか?」

「うん。はやい。かむ。しつこい」

「嫌な情報しかないな」

「でも弱い」

「続けて」

「一匹なら」

「だよな……」


 結局、ガレスとほぼ同じ評価だった。


 それでも、俺たちは依頼を受けることにした。

 金が必要なのもあるが、何より“戦えるかどうか”を自分で確かめたかった。


 目的地は町から少し離れた草地帯。家畜を襲う牙犬が出るらしい。


 現地に着くと、俺は周囲を見回した。

 低い草、なだらかな起伏、ところどころに岩。隠れ場所は少ないが、逆に相手も奇襲しにくい。


「気配は?」

「二匹……いや、三匹」

 ルナが耳を澄ませる。

「右。草の中」


 さすがだ。

 俺にも薄ぼんやりと気配は分かるが、ルナほど鮮明じゃない。


「作戦は」

「一匹ずつ釣る」

「できるかな」

「やる」


 簡潔で頼もしい。


 俺は拾った石を右手に取り、草むらへ投げた。

 がさり、と音がしてすぐ、低い唸り声が返ってくる。


 次の瞬間、草を割って飛び出してきたのは灰色の獣だった。


 犬に似ている。

 だが口は大きく裂け、牙が異様に長い。目は獣というより飢えた魔物のそれだった。


「っ!」


 一匹目が一直線に俺へ飛びかかる。


 速い。

 だが、見える。


 ガレス由来の気配察知、盗賊崩れから写した回避感覚、ルナ由来の踏み込み。その全部を無理やり繋ぎ、横へ転がるように避ける。


 すれ違いざま、ルナが横合いから蹴りを叩き込んだ。


「ギャンッ!?」


 牙犬の身体が弾かれる。


「今!」

「おう!」


 立ち上がりざま、俺は拾っていた短槍を突き出した。

 ギルドで安物を借りてきたものだ。


 狙いは浅い。

 だが牙犬の肩口に刺さる。


 悲鳴。血。


 生き物を傷つけた感触に一瞬手が止まりそうになる。

 だが止まればこっちが死ぬ。


 二匹目が左から来た。


 俺を囮と見たらしい。

 飛びつきに合わせて、さっきより深く腰を落とす。月牙闘士の断片が、体重移動を助けてくれる。


 牙が肩を掠める。

 痛み。浅いが切れた。


「っ、くそ!」


 だが避けきった。

 その隙にルナが背へ飛び乗り、首筋に肘を叩き込む。


 三匹目がルナへ向かう。

 まずい。


 俺は反射的に踏み込んだ。

 今までなら無理だった距離を、一歩で詰める。


 月牙闘士の身体運用。

 ガレスの読み。

 盗賊崩れの荒っぽい体術。


 全部が半端なまま噛み合って、俺だけの動きになる。


「うおおっ!」


 短槍を横殴りに叩きつける。

 三匹目の鼻先に当たり、牙犬が怯んだ。


 そこへルナが回転蹴りを叩き込む。


「終わり!」


 最後の一匹が地面へ転がったところで、俺はすぐ距離を取った。

 まだ動くかもしれない。


 だが牙犬たちは、しばらく痙攣したあと、完全に沈黙した。


 静寂。


 風が草を揺らす音だけが聞こえる。


「……勝った?」

「うん。たぶん」


 ルナも肩で息をしていた。

 俺はその場にへたり込みそうになるのをこらえる。


 勝った。

 ぎりぎりだ。でも、勝った。


「コーイチ、肩」

「え?」

「血、出てる」

「ああ、そういえば」


 遅れて痛みが来た。


 ルナが近づいて傷を見る。

 浅い。縫うほどじゃないが、消毒くらいは必要そうだ。


「町、戻る」

「そうだな……討伐証明も取らないと」


 牙犬の牙を依頼証明として回収しながら、手が少し震えているのに気づく。

 恐怖と興奮が混ざっていた。


 異世界に来て、追放されて、無職と笑われて。

 それでも今、俺は確かに戦って、生き残った。


「……やれるじゃん、俺」

「ルナもいるから」

「だな」


 素直に頷く。


 ラドスへ戻る道すがら、空は少し明るく見えた。


 ギルドに戻ると、マリナさんが回収した牙を見て目を丸くした。


「本当に二人で倒したの?」

「まあ、何とか」

「何とかで済ませるには傷だらけだけど」


 呆れたように言いながらも、彼女は依頼達成の印を押してくれた。


 周囲の冒険者たちもざわついている。

 昨日まで“無職”と笑っていた連中の目に、少しだけ別の色が混じっていた。


「へえ……」

「やるじゃねえか」

「獣人のガキが強いだけじゃねえの?」


 そんな声も飛ぶ。

 けれど今は、それすら悪くなかった。


 無視されるより、ずっといい。


 報酬の銀貨六枚を受け取り、木札を握る。

 まだ最下位だ。弱い。知らないことだらけだ。


 でも。


「ここからだな」

 思わず呟く。


 ルナが隣で耳を動かした。


「うん。ここから」


 無職の冒険者。

 追放された会社員。

 どんな呼ばれ方でもいい。


 俺はもう、ただ捨てられた男じゃなかった。

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