第89話 修復者
王都を離れる直前、フィリアが駆けつけたのは本当にぎりぎりだった。
「相沢! 生きてる!?」
「第一声それかよ」
「重要でしょう!」
彼女は荒い息のまま俺の顔色を見て、それから中枢停止の報を確認し、ようやく肩の力を抜いた。
「間に合ったのね」
「ああ。何とか」
フィリアは、俺が触れた中枢核の残滓を調べると、すぐに難しい顔になった。
「やっぱり」
「何が」
「あなた、ただ止めたんじゃない。壊れた接続を“修復”しながら閉じてる」
修復。
その言葉に、俺は少し眉をひそめた。
「閉じただけじゃないのか」
「違う。無理やり閉じれば、もっと大きく裂けていた可能性が高い。あなたは空位の器で流れを受け止めて、座標と理を整え直した」
「そんな器用なこと、無意識でやったのか……」
「恐ろしいわね、本当に」
でも、言われてみれば感覚はあった。
ただ破壊したんじゃない。
ほどいて、戻して、空へ返した。
「修復者、か」
俺が呟くと、フィリアは頷いた。
「少なくとも、その側面はある。職業の外にいるくせに、職業システムのほころびを最も近くで扱える」
ルナが俺を見る。
「コーイチ、なおすの得意?」
「どうだろうな」
「でも、壊すだけじゃなかった」
「……そうだな」
その言葉は妙にしっくりきた。
王国に捨てられた無職。
でも、その無職だからこそ、壊れた理に触れて、戻すことができた。
修復者。
その呼び名は、空位の器と同じくらい、今の俺に近い気がした。




