第88話 無職は裁かない
王族の罪を暴いても、俺の中に不思議と“断罪してやる”みたいな熱はなかった。
怒りはある。
許せない気持ちもある。
でも、ここで俺が王族を裁いて王になるような筋書きは、どうしても違うと思った。
「先輩」
玲奈が小さく聞く。
「どうしますか」
王太子も重臣も、もうまともに反論できる状態じゃない。
兵たちも命令待ちで固まっている。
ここで俺が何か言えば、それがそのまま王都の流れになるかもしれない。
でも。
「俺は裁かない」
はっきり言った。
大雅が少し驚いた顔をする。
「いいのか」
「良くはない」
俺は答える。
「でも、俺がここで王族の代わりに正義ぶって裁くのは違う」
美咲さんが静かに頷いた。
「ええ。あなたはそういう人よね」
王国の罪は、王国自身が背負うべきだ。
諸国への説明も、被害者への補償も、王都の再建も、全部だ。
「逃がさない」
俺は王太子を見る。
「でも、俺が王の代わりになるつもりもない」
王太子は蒼白な顔のまま、かすかに俯いた。
それが理解なのか、敗北なのかは分からない。
ただ一つだけ言えるのは、俺はここで“上に立つ者”になりたいわけじゃないということだ。
無職は裁かない。
その代わり、見過ごしもしない。
「証拠は全部外へ出す」
俺は言う。
「王国は諸国に説明しろ。被害者に向き合え。逃げるな」
それだけを言い残し、俺たちは玉座の間を後にした。
王になる物語じゃない。
裁きの英雄になる話でもない。
それでいいと、今は思えた。




