第85話 神崎の末路
中枢へ接続した瞬間、俺の意識は引き裂かれるように広がった。
王国が重ねた召喚術。
古代術の残骸。
人為的な職業定着。
精神補正。
界外接続。
全部が一気に流れ込んでくる。
「がっ……!」
耐えろ、と自分に言い聞かせる。
その中で、微かな別の反応があった。
切断されたはずの補助術式が、まだ外縁で中枢と繋がっている。
神崎だ。
俺は歪んだ意識の中で、その接続を辿った。
回廊で断ったはずの術理の先。
神崎は自分自身を王国の盤面に繋ぎすぎていた。
賢王参謀として、王国の判断補助の一部になってしまっている。
中枢暴走の余波は、その接続を逆流していた。
「……だからか」
思わず漏れる。
神崎は盤面を支配していたんじゃない。
盤面の一部にされていた。
上層の崩れた回廊で拘束されていた神崎が、突然苦鳴を漏らしたのはその時だった。
「ぐっ……!」
美咲さんが気づく。
「神崎さん?」
神崎は床に手をつき、初めて明確な苦痛の顔を見せていた。
「どうした!?」
大雅が叫ぶ。
「中枢の逆流だ!」
俺が意識越しに叫ぶ。
「神崎さん、王国の術式と繋がりすぎてる!」
神崎は歯を食いしばる。
「……馬鹿な」
「馬鹿なのはあんただ!」
俺は怒鳴った。
「合理性だの正しさだの言って、自分まで王国の部品になってる!」
神崎の目が揺れる。
たぶん、自覚は薄かったのだろう。
賢王参謀という高位職。
王国全体の補助と接続するほど強い役割。
それを都合よく使われ続けた結果、自分自身の意志の輪郭まで削れていた。
「……私は」
神崎が絞り出す。
「正しかった、はずだ」
「そう思い込まされてたんだよ」
俺は言う。
「少なくとも、今のあんたはそうだ」
神崎は何か言い返そうとして、結局言葉にならなかった。
そのまま、術式逆流の痛みに沈む。
末路、と呼ぶにはまだ早いかもしれない。
だが少なくとも、賢王参謀・神崎恒一郎という“王国の理性”は、ここで完全に壊れた。




