第82話 空位の器の正体
王都の一角に避難の流れを作った後、俺たちは一時的に崩れた神殿区の広場へ集まった。
上空ではまだ裂け目が不気味に脈打っている。
「このままだと、流入が広がるわ」
フィリアがいればそう言っただろうと、美咲さんが代わりに口にした。
「中枢を壊しただけでは、もう足りない」
俺は空を見たまま、さっきから引っかかっている感覚を整理していた。
あの裂け目を見た時、空位の器が妙に“馴染む”ような反応をした。
拒絶ではなく、受け入れるような。
「コーイチ?」
ルナが顔を覗き込む。
「変」
「……たぶん」
俺はゆっくり言う。
「俺の力、ただ職業を写すだけじゃない」
玲奈が息を呑む。
「まだ先があるってことですか」
「ある、というより……最初からそこまで含んでたのかもしれない」
王国の記録には、空位器異常体再接続試験案とあった。
単に便利な力だからじゃない。
召喚中枢と“接続できる”何かだから、王国は俺を欲しがった。
「空位の器って」
美咲さんが低く言う。
「職業の器じゃなくて、もっと大きい“接続の器”なのかもしれないわね」
その言葉で、ようやく腑に落ちた。
人の職能。
術式の理屈。
召喚残滓。
結界構造。
そして今、界外の裂け目にまで反応する感覚。
俺の器は、役割の断片を受け入れるだけじゃない。
“この世界の理に接続されるもの”全般を受容する器なんだ。
「正体、やっと見えてきたな」
俺が苦く笑うと、大雅が眉をひそめる。
「笑ってる場合か?」
「いや、笑うしかないだろ」
「まあ……それはそうか」
ルナが俺の袖を掴む。
「でも、コーイチ、飲まれるな」
「ああ」
それが一番怖い。
受け入れられるってことは、逆に流し込まれもするってことだ。
「つまり」
玲奈が整理するように言う。
「先輩はあの裂け目を閉じられるかもしれない。でも、そのためには正面から触れないといけない?」
「たぶんな」
俺は答える。
全員の顔が強張った。
危険すぎる。
でも、それ以外の方法が見えない。
空位の器の正体が見えたからこそ、次に俺がやるべきことも見えてしまった。




