第81話 流れ込む世界
王都の崩壊は、地下中枢の暴走だけでは終わらなかった。
空に走る光の裂け目が、ゆっくりと広がっていく。
「……まだ終わってない」
フィリアの言葉を思い出すまでもなく、それは明らかだった。
王城の上空に浮かぶ歪な光は、ただの爆発じゃない。
召喚中枢が無理やり開こうとしていた“外”が、閉じきらずに残っている。
「コーイチ」
ルナが低く言う。
「嫌な感じ、増えてる」
俺にも分かった。
肌を刺すような異質な圧。
人でも魔物でもない、“世界の外”の気配。
裂け目の周囲から、黒い靄みたいなものが流れ落ちてくる。
触れた石畳が軋み、街灯の魔導具が一斉に明滅した。
「何よ、あれ……」
玲奈の声が震える。
「界外流入」
美咲さんが低く呟く。
「王国、ここまで開いてしまったの……?」
逃げる人々の間に、ざわめきが広がる。
誰も仕組みなんて分からない。
ただ、“何かよくないものが空から降りてきている”ことだけは本能的に察していた。
俺は裂け目を見上げながら、胸の奥がざわつくのを感じた。
空位の器が、反応している。
嫌な予感しかしない。
なのに同時に、あの裂け目が何なのか“近い感覚”もある。
「……流れ込んでる」
思わず口に出る。
「何が?」
玲奈が問う。
「世界の外の、何かだ」
王国は人を呼ぼうとした。
でも中枢暴走のせいで、扉は“人だけ”を選ばなくなったのかもしれない。
無理やり開かれた穴から、この世界にあってはいけないものが流れ込み始めている。
「止めるしかないな」
大雅が剣を握り直す。
「ああ」
俺は頷く。
「王国だけじゃなく、今度はあれそのものを」
反撃は、もう国家相手だけの話じゃなくなっていた。




