第80話 無職は見捨てない
王都の混乱は、もはや戦場ではなく災害だった。
神殿区の石柱が崩れ、貴族区では火の手が上がり、城下では人々が逃げ惑う。
王国兵ですら統率を失い始めていた。
「こっち! まだ子供がいる!」
玲奈が叫ぶ。
倒れた荷車の下で泣いていた子供を、ルナが素早く引きずり出す。
美咲さんは怪我人へ回復術をかけ続けていた。
大雅は崩れかけた壁を剣で受け止め、逃げ道を作る。
「早く行け!」
怒鳴る声は、以前よりずっと人間らしかった。
俺は次々に人を運びながら、自分でも妙な感覚を覚えていた。
王国に追放され、銀貨十枚で捨てられた無職。
その俺が、いま王都の人間を助けて回っている。
笑える話だ。
でも、これでいいとも思う。
「コーイチ!」
ルナが呼ぶ。
「向こう、まだ残ってる!」
崩れた回廊の先に、老人と若い兵士が取り残されていた。
兵士の方は足を挟まれている。
「助けるぞ」
「うん!」
近づいた瞬間、その兵士が俺を見て目を見開いた。
「お前……相沢、恒一……?」
「知ってるのか」
「手配書で……」
そう言いながらも、そいつは俺の手を振り払わなかった。
むしろ、必死に老人を庇っていた。
俺は瓦礫に手をかける。
重い。
だが今の俺には、盗賊崩れの荒事、騎士の体捌き、月牙闘士の踏み込み、剣聖の軸、いろんな断片がある。
「どけ……!」
歯を食いしばって瓦礫をずらす。
ルナが老人を抱え、美咲さんが兵士の足を治す。
助け終えた時、兵士が呆然と俺を見た。
「なんで……」
「何が」
「なんで、俺たちを助ける」
俺は一瞬だけ黙った。
それから、素直に答える。
「見捨てたくないからだ」
兵士は言葉を失った。
たぶん、王国から聞かされていた俺の像とは違ったのだろう。
でも、それでいい。
王国は俺を無能と呼んだ。
危険人物と呼んだ。
裏切り者と呼んだ。
それでも。
無職は見捨てない。
少なくとも、俺はそうありたいと思った。
燃え上がる王都を背に、俺たちはなお動く。
救える命を拾いながら、崩れていく王国の中心を見上げる。
これは終わりじゃない。
だが、王国の嘘が崩れ始めた瞬間ではあった。




