第79話 崩れる王都
召喚中枢の暴走は、静かに始まり、次の瞬間には取り返しのつかない規模へ膨れ上がった。
中央陣の光が白から黒へ、黒から赤へと歪む。
天井を走る導線が悲鳴みたいな音を立てた。
「撤収!」
俺が叫ぶ。
「証拠は持てるだけ持って逃げる!」
だがもう遅い部分もある。
中枢から漏れた衝撃が、王城下層全体を揺らした。
ごごん、と重い音。
次いで、上層から悲鳴。
「王都までいく……!」
美咲さんが顔を上げる。
王城の地下にある中枢が暴走すれば、地盤ごと城下へ影響が出る。
実際、石壁が割れ始めていた。
「ルナ、先導!」
「うん!」
「大雅、後ろ頼む!」
「任せろ!」
俺たちは神崎とバルディスを置いたまま、上層への退路を走る。
正直、助ける余裕はなかった。
階段を駆け上がる途中で、また大きな揺れが来る。
「きゃっ!」
玲奈がよろめく。
咄嗟に支える。
その横を石片が落ちていった。
「急げ!」
ようやく地上へ出た時、王都はもう混乱の中にあった。
王城の一角から光柱が上がり、空が不自然に明るい。
兵が叫び、民が逃げ、鐘が乱打されている。
「うそ……」
玲奈が息を呑む。
「こんな……」
城下の石畳がひび割れ、神殿区の一部でも崩落が始まっていた。
王国が隠していた禁忌は、最後に王都そのものを噛み砕こうとしている。
「王国の自業自得だな」
大雅が苦く言う。
「……でも、巻き込まれるのは民だ」
そこが最悪だった。
王国を止めに来たのに、結果として王都が崩れていく。
もちろん原因は王国にある。だが、今ここで見捨てれば俺たちも同じだ。
俺は歯を食いしばった。
「救える範囲は救う」
「先輩?」
「証拠は持った。目的は果たした。でも、それで人を見捨てる理由にはしない」
美咲さんが俺を見る。
そして静かに頷いた。
「ええ」
王都が崩れる。
だがその中で、俺たちはただ逃げるだけでは終われなかった。




