第77話 断ち切る者
神崎の術式が崩れた瞬間、戦場の空気が変わった。
護衛たちの連携が乱れる。
バルディスの指示も半拍遅れる。
その隙を、大雅は見逃さなかった。
「おらぁっ!」
剣聖の一撃が護衛陣を弾き飛ばす。
ルナが低く滑り込み、残った術者を落とす。
玲奈の矢が上から降り、退路だけを的確に塞いだ。
「神崎先輩!」
玲奈の声。
床に膝をついた神崎は、なおも立ち上がろうとしていた。
だがもう以前の盤面支配はない。
「終わりです」
美咲さんの光鎖が伸びる。
「これ以上は」
神崎はそれでも冷静だった。
「朝倉さん。甘いですね」
「……そうかもしれない」
「拘束した程度で止まると思いますか」
「思わないわ」
美咲さんの声は静かだった。
「だから、ここで断ち切るの」
光が強まる。
拘束というより、術式接続そのものを遮断する結界。
聖導姫としての力を、初めて“癒し”ではなく“切断”に使っているのだと分かった。
「……っ」
神崎の顔が初めて歪む。
「王国への接続を断つ」
美咲さんは言った。
「あなたが、国家の理屈だけで人を切るなら。私はその鎖を切る」
その言葉は、自分自身にも向けたものだったのかもしれない。
聖女の鎖を断ち切った彼女が、今度は神崎の側にある鎖を断とうとしている。
「無駄です」
神崎はなお言う。
「私が正しい」
「そうね」
俺が答えた。
「でも、その正しさで救われた人間、少なすぎるんだよ」
神崎は俺を見た。
何か言い返そうとしたが、結局言葉にならなかった。
大雅が剣を下ろす。
「神崎さん」
低い声。
「俺、あんたのこと嫌いじゃなかった」
「でしょうね」
「でももう無理だ」
それが決別だった。
切り捨てる者と、切り捨てられた者。
その関係を、ここで断ち切る。
神崎は拘束され、戦場から外れた。
これで終わりじゃない。
だが一つ、大きな鎖は確かに断たれた。




