第75話 大雅の証明
バルディスの護衛が動いた瞬間、横合いから鋭い斬撃が走った。
護衛の一人の剣が弾き飛ばされる。
「――え?」
玲奈が目を見開く。
扉の向こうから現れたその男を見て、俺も一瞬言葉を失った。
桐生大雅。
王国の紋章入り上衣はない。だが腰の剣はそのまま。
そして、その目は以前よりずっとはっきりしていた。
「遅くなった」
大雅が言う。
「道、めちゃくちゃ面倒だった」
「お前……」
俺が呟く。
バルディスが険しい顔になる。
「桐生殿。貴様、自分が何をしているか分かっているのか」
「分かってますよ」
大雅は剣を構えた。
「俺、王国やめます」
さらっと言うな。
でも、その一言は重かった。
「……本気か」
俺が聞くと、大雅は一瞬だけこちらを見る。
「遅えって顔してるな」
「少しな」
「悪かったよ」
「ほんとにな」
そんなやり取りをしている場合じゃないのに、少しだけ笑いそうになった。
大雅は正面を見据えたまま言う。
「相沢、お前の言ってたこと、やっと分かった」
「遅かったな」
「うるせえ」
そのやり取りだけで十分だった。
大雅はもう、王国の剣じゃない。
「玲奈! 美咲さん! 中枢側の証拠確保を続ける!」
俺が叫ぶ。
「ルナ、大雅、前を止めるぞ!」
「おう!」
大雅が踏み込む。
剣聖の一撃は、以前より迷いがなかった。
王国のためじゃない。自分で決めた側に立つための剣だ。
護衛騎士が二人まとめて弾かれる。
「すご……」
玲奈が思わず漏らす。
「今さらかよ!」
大雅が怒鳴る。
「俺、剣聖だぞ!」
その声に、ほんの少しだけ昔の調子が戻っていた。
王国を離れたことが、むしろこいつを軽くしたのかもしれない。
「相沢!」
大雅が叫ぶ。
「今日は俺が証明する!」
「何を」
「お前を無能扱いした側が、どんだけ間違ってたかってことだよ!」
それは不器用で、でも大雅らしい言葉だった。
剣聖の離反。
それは単なる戦力追加じゃない。
王国が語る“勇者譚”そのものを内側から壊す、証明だった。




