第74話 王国の本音
召喚中枢の扉をくぐってきたのは、騎士でも術者でもない。
宰相バルディスだった。
その背後に護衛を従え、王国そのものを背負ったような顔で立っている。
「ここまで辿り着くとはな」
低い声が響く。
「そっちの秘密が雑だったんじゃないですか」
俺が返すと、バルディスは眉一つ動かさない。
「相変わらずだな、相沢恒一」
「覚えてもらえて光栄ですね」
美咲さんが前へ出る。
「宰相閣下。もう言い逃れはできません」
「何のことだ」
「召喚術、精神補正、適合試験、人身利用。全部です」
バルディスはしばらく沈黙し、やがて静かに言った。
「……では逆に問おう」
「何を」
俺が返す。
「国が滅びかけている時、手段を選んでいられると思うか?」
その言葉に、空気が冷えた。
「魔人皇国は勢力を増し、国境は不安定化し、諸国は足並みを揃えない。王国が生き残るには、圧倒的な力が必要だった」
「だから異世界人を拉致した?」
玲奈が怒る。
「だから獣人や人間を素材扱いした?」
「必要だった」
バルディスは言い切った。
「国家とはそういうものだ」
神崎と同じだ。
いや、こいつらの思想の大元がこれなのだろう。
「ふざけるな」
俺が低く言う。
「必要なら何をしてもいいってか」
「少なくとも、何もせず滅びるよりはいい」
それが王国の本音だった。
勇者だの、救国だの、神託だの、そんな綺麗な言葉の奥にあったもの。
結局は、生き残るためなら他人をいくらでも踏みつけるという国家の都合。
美咲さんの声が震える。
「私たちは、そのための道具だったのね」
「高位職を得た幸運な召喚者たちだ」
バルディスは淡々と返す。
「王国にとっても、お前たちにとっても、悪い話ではなかったはずだ」
「悪い話でしたよ」
俺ははっきり言った。
「少なくとも、俺たちの人生を勝手に使っていい理由にはならない」
バルディスの視線が俺に向く。
「お前だけは、誤算だった」
「知ってます」
「だからこそ今、ここで回収する価値がある」
その瞬間、背後の中枢が低く唸った。
まずい。
向こうはまだ俺を中枢へ接続する気だ。
「コーイチ」
ルナが一歩前へ出る。
「もう話すだけ無駄」
「ああ」
俺も頷く。
王国の本音は聞いた。
なら、次にやることは一つだ。




