第73話 召喚中枢
神崎の罠を崩した隙に、俺たちは回廊の奥へ駆け抜けた。
「追ってくる!」
玲奈が後方を警戒しながら言う。
「分かってる!」
俺は先を急ぐ。
資料庫から抜いた移送記録通りなら、この先に王城下層の接続区画がある。
石造りの階段を降りるたび、空気が冷えていく。
そして、かすかに感じる。
あの嫌な感覚だ。
召喚陣の残滓。
世界の外へ無理やり手を伸ばす、あの歪んだ匂い。
「近い」
ルナが耳を伏せる。
「すごく嫌」
階段を下り切った先で、重い扉が見えた。
王族の紋章と、古代術式を無理やり重ねた封印。
「ここか」
俺が言う。
「破れる?」
美咲さんが問う。
「やるしかない」
神崎から流れ込んだ術理の断片を辿る。
封鎖と接続は表裏一体だ。閉じる術には、必ず開くための理屈がある。
扉へ手を当てる。
冷たい。
そして深い。
術式の層が幾重にも重なっていた。王国式、古代式、補助式、認証式。複雑すぎる。
「コーイチ」
ルナが不安そうに呼ぶ。
「大丈夫じゃないけど、いける」
俺は一つずつ流れをずらした。
破壊じゃない。噛み合わせを外す。
神崎の術理、フィリアの知識、旧神殿で拾った召喚残滓。今まで積み上げた全部を使う。
がちり、と音がした。
扉が開く。
中は、広すぎる地下空間だった。
中央に巨大な陣。
幾重にも重なる円環。
周囲に並ぶ水晶柱。
天井近くまで伸びる魔力導線。
その中心には、空の台座。
「……これが」
玲奈が息を呑む。
「召喚中枢」
壮観、という言葉では足りない。
美しいとすら思ってしまうほど整っているのに、根本がひどく歪んでいる。
美咲さんが唇を噛む。
「こんなものを、王城の下で……」
さらに奥、制御卓らしき場所に文書束と水晶記録が並んでいた。
「証拠を押さえる!」
俺が言う。
「玲奈は出入口警戒、ルナは周辺確認、美咲さんは万一に備えて!」
「了解!」
「うん!」
俺は制御卓へ走る。
記録には、召喚座標、適合率、職業定着候補、精神補正強度、第二召喚対象選定――見たくもない文字列が並んでいた。
そして、その最下部。
空位器異常体再接続試験案
「……俺を、中枢に繋ぐ気だったのか」
喉の奥が冷える。
王国は、俺をただ回収したかったわけじゃない。
この召喚中枢に、“空位の器”を接続するつもりだった。
もしそうなっていたら、何が起きたか分からない。
「先輩!」
玲奈の声が飛ぶ。
「来る!」
振り返ると、扉の向こうに複数の影。
もう時間がない。
だが、ここまで来たなら――中枢そのものを止めるしかなかった。




