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職業なしの俺、実は“触れるだけで全職業を奪える”最強のバグ持ちでした ~ 召喚された王国に見捨てられたので、自由に生きてたら世界の勢力図が変わってた~  作者: 天音天成
第8章 王都潜入

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第72話 空位の器、拡張

 神崎の結界術は、今まで見てきたどの術者とも違っていた。


 派手じゃない。


 だが、無駄がなく、逃げ道を潰すことだけに特化している。


「右、塞がれた!」

 玲奈が叫ぶ。


「左も!」

 ルナが低く返す。


 床だけじゃない。壁際、天井近く、柱の影。見えにくい位置に補助式が仕込まれている。最初からこの回廊そのものが罠だったのだ。


「相沢」

 神崎が淡々と言う。

「君は触れて学ぶ。なら学ぶ余地ごと潰せばいい」


 本当に嫌な奴だ。


 だが、そこで終わるならここまで来ていない。


 俺は結界の走る床を見た。術式の流れ。節点。補助のつなぎ目。今までは人からしか拾えないと思っていた。だが旧神殿でも、召喚残滓でも、術そのものから“感覚”を拾い始めていた。


 なら――。


「コーイチ?」

 ルナがこちらを見る。


「少し無茶する」

「いつもしてる」

「今回は特にだ」


 俺は結界の走る柱へ手を伸ばした。


「相沢!」

 美咲さんが止める。

「それは――」


 触れた瞬間、視界が白く焼けた。


 人の職能とは違う。もっと硬質で、理そのものに近い感覚。

 封鎖、分岐、誘導、拘束。


 神崎が組んだ回廊全体の“考え方”みたいなものが、一気に流れ込んでくる。


「――っ、が……!」


 頭が割れそうだ。


 だが分かる。


 結界は完璧じゃない。複雑だからこそ、中心を外せば一部が連鎖的に緩む。


「そこか」

 俺は低く呟き、床の一点へ踏み込んだ。


 神崎の目が初めてわずかに見開かれる。


「まさか……」


 短剣を逆手に持ち、補助式の継ぎ目へ突き立てる。壊すというより、流れをずらす。

 ぱき、と乾いた音がした。


 次の瞬間、回廊右側の拘束光が一斉に揺らいだ。


「玲奈! 右が薄い!」

「了解!」


 玲奈の矢が走る。緩んだ結界の節へ正確に突き刺さり、連鎖的に光が崩れた。


 ルナがそこへ飛び込む。


「開いた!」


 神崎がすぐに次の術式を起こそうとする。


 だがその手首へ、今度は俺が踏み込んだ。


 触れる。


 流れ込む。


 賢王参謀の術理。戦場全体を盤面として扱う感覚。敵を動かして、勝手に詰ませるための思考。


 重い。鋭い。嫌になるほど神崎そのものだった。


「……君は」

 神崎の声が初めて揺れる。

「そこまで届くのか」


「こっちだって」

 息を荒げながら返す。

「いつまでも、あんたの盤の上にいるつもりはない」


 触れた瞬間、今までよりはっきり分かった。


 空位の器は、ただ断片を蓄積するだけじゃない。

 人の技能だけでなく、術式の構造や、仕組みそのものまで受け入れ始めている。


 拡張している。



 王国が危険視した理由を、俺自身がいま理解し始めていた。

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