第71話 賢王参謀の罠
王城外周の裏門を抜けた時点で、神崎はもうこちらの侵入を読んでいたのだと思う。
そう気づいたのは、中庭手前の回廊に入った瞬間だった。
「……静かすぎる」
俺が足を止める。
王都は今、聖女帰還で揺れているはずだ。なのに、この区画だけ妙に整いすぎていた。
「罠かも」
ルナが低く言う。
玲奈も弓を構えたまま周囲を見回す。
「気配、少ないです。でも……少なすぎる」
美咲さんは唇を引き結んだ。
「神崎さんなら、混乱の中でも“通したい道”を作る」
「つまり」
「私たちは、通されてる可能性がある」
最悪だった。
だが、だからといって引き返せる場所でもない。
先へ進めば王城下層。戻れば外周で包囲される。
「進むしかないな」
俺が言うと、全員が頷いた。
回廊を抜けた先、石扉の前で待っていたのは騎士ではなかった。
神崎恒一郎。
一人で立っていた。
「やはり来ましたか」
淡々とした声。
「待ち伏せ趣味でも始めたんですか」
俺が返すと、神崎はわずかに目を細めた。
「あなたが来るのは当然です。証拠を得て、王都の中枢へ辿り着いたなら、次は止めに来る」
「分かってるなら、どけ」
「嫌です」
即答だった。
玲奈が怒る。
「神崎先輩、まだそんなこと言うんですか!」
「篠宮さん。君たちは利用されている」
「利用してたのは王国でしょう!」
神崎は玲奈を見ず、俺だけを見ていた。
「相沢。君は厄介すぎる」
「光栄ですね」
「皮肉ではありません。本気でそう思っている」
その声には迷いがなかった。
「王国にとっても、世界にとっても、君は不確定要素だ」
「便利な言い方だな」
「事実です」
会話しても無駄だと分かる。
神崎はもう、こちらを説得する気も、理解する気もない。
ただ排除するために立っている。
「なら」
俺は短剣を抜く。
「突破するだけだ」
神崎の周囲に、青白い術式光が浮かんだ。
「できるなら、どうぞ」
次の瞬間、床一面に陣が走る。
拘束結界。
しかも単純な足止めじゃない。侵入者の動線を先読みして封じる、神崎らしい嫌らしい術式だった。
「ちっ……!」
俺は横へ跳ぶ。
ルナも玲奈も散る。
美咲さんだけが一歩前へ出た。
「神崎さん」
低い声。
「もうやめて」
「できません」
「本当に?」
「ええ」
その返答だけで十分だった。
これは罠だ。
しかも、賢王参謀が自ら仕掛けた本命の。




