第67話 潜入開始
王都潜入の日は、曇天だった。
晴れていないのがありがたかった。目立ちにくいし、視界も鈍る。
俺たちは商隊に紛れて王都近郊まで入り、そこから別れて動いた。
「ここから先は小声で」
美咲さんが言う。
「城下に入れば、王都は王国の顔よ。油断したらすぐ見つかる」
懐かしいはずなのに、最悪の意味でしか懐かしくない景色だった。
白い石壁。
整えられた大通り。
王都の空気。
追放されたあの日と同じ場所なのに、今は戻る側として立っている。
「気持ち悪い」
ルナがぼそっと言う。
「わかる」
俺も小さく返した。
ルナは先行して裏路地を確認。
玲奈は少し離れた高所へ。
俺と美咲さんは人波に紛れて進む。
表通りは以前と変わらず華やかだった。だがその裏で、兵の巡回は明らかに増えている。
「告発の影響ね」
美咲さんが小声で言う。
「王国も内心かなり焦ってる」
まず目指すのは、王都外縁の中継資料庫だった。
王城に入る前に、召喚関連文書が一時集積されているとサニアの情報がある。
「ルナ」
俺が小さく呼ぶ。
少し先の物陰から、彼女が短く合図を返した。
人通りの切れ目。巡回の間隔。今なら行ける。
「行くぞ」
「ええ」
裏手の搬入口から滑り込む。
中は薄暗く、紙とインクの匂いが強い。棚と木箱が並び、奥には施錠された部屋がある。
「当たりですね」
玲奈の声が耳飾り型の簡易通話具越しに届く。
「外の巡回、二分は空きます」
便利すぎるな、これ。
フィリア製の簡易魔導具は本当に優秀だった。
俺は施錠部へ手を伸ばす。盗賊崩れと処理班から拾った技能がこういう時に役立つの、複雑だなと思いながら。
かちり、と鍵が外れた。
中には資料箱が積まれていた。
表紙の一つに書かれている。
召喚中枢移送記録
「よし」
思わず声が漏れる。
潜入はまだ始まったばかりだ。
だが最初の一手としては、悪くなかった。




