第66話 それぞれの役目
王都潜入に向けた準備は、想像以上に細かかった。
「勢いだけで入ったら死ぬわよ」
フィリアが言う。
「死にたくないので、真面目にやります」
倉庫の中に広げられた地図の前で、俺たちは役割を切り分けていく。
まず俺。
「俺は中枢接触と証拠確保」
「妥当ね」
美咲さんが頷く。
「あなたの空位の器なら、術式そのものから拾える可能性がある」
次にルナ。
「先行偵察と近接支援」
「うん」
ルナは短く頷く。
「見つからないように行く」
玲奈は遠距離支援。
「高所取れたら最強ですね」
「そうね。城下の建物配置なら、弓の通る場所は多いはず」
「任せてください」
美咲さんは治療と結界、そして城内導線の案内役。
「王都にいた時間、無駄じゃなかったと思いたいわ」
「十分すぎるくらい助かります」
俺が言うと、彼女は少しだけ微笑んだ。
フィリアは後方解析。
サニアは物資と退路の手配。
無職の旗の面々も、情報伝達や陽動に回る。
「思ったより本格的だな」
俺が呟くと、サニアが笑った。
「今さら何言ってんだい。もう立派な反王国組織だよ」
否定しづらい。
だが、その肩書きだけでは終わりたくない。
「王国を壊すためじゃない」
俺は言う。
「召喚を止めるためだ」
美咲さんも静かに続けた。
「ええ。私たちは復讐だけのために行くんじゃない」
玲奈はそこで一瞬黙ってから、はっきりと言った。
「でも、怒ってるのも本当です」
「……それも必要だな」
俺は頷く。
綺麗事だけでは動けない。
怒りも、悔しさも、後悔も全部抱えたまま、それでも役目を果たすしかない。
「それぞれの役目、か」
俺が地図を見ながら言うと、ルナが小さく答えた。
「コーイチは真ん中」
「真ん中?」
「みんな、そこに合わせる」
意外な言葉だった。
でも、少しだけ嬉しかった。
無職の俺が、今はちゃんと真ん中にいる。
それがこの戦いの形だった。




