第64話 証言者
証言の場は、アストラの学術会館の一室を借りて行われた。
完全な公の場ではない。
だが商会連合、ギルド連盟、学術評議会、亜人居留区の代表が立ち会う。王国も無視できない規模だった。
「緊張します?」
俺が小声で聞くと、玲奈は苦笑した。
「そりゃしますよ。でも、逃げるよりマシです」
美咲さんは白い衣を整え、静かに前を見ていた。
王国が冊子で描いた“聖女候補”そのままの姿だ。
だからこそ意味がある。
その本人が、王国の物語を否定するのだから。
最初に話したのは、廃鉱区から救出された獣人の青年だった。
「私は王国兵に連行された」
震える声だった。
「保護ではない。檻に入れられ、術式を刻まれ、適合率と呼ばれた」
場が静まる。
次に、人間の少女が証言した。
「私は孤児院から消えた子たちを知っている。みんな“引き取られた”と聞かされた。でも違った」
重い。
一つ一つの言葉が重い。
そして最後に、美咲さんが立った。
「私はレーヴェルト王国に召喚された一人です」
その一言で空気が変わる。
「王国は私たちを保護したのではありません。力ある職業を与え、国家戦力として管理していました」
玲奈も続く。
「私は精霊弓姫として扱われました。でも、それは祝福なんかじゃない。王国に都合よく使うための首輪でした」
首輪。
その言い方に、立会人たちの顔がはっきり変わった。
そして最後に俺の番が来る。
「俺は相沢恒一。王国に召喚され、職業なしとして追放された人間です」
静まり返る室内で、俺はまっすぐ前を見た。
「でも実際は違った。王国の召喚術に乗らなかった異物だったから、捨てられたんです」
「……」
「王国は人を呼び、役割を与え、使いやすく整えて、不要なら捨てる。その延長で第二召喚計画まで進めていた」
資料を机に置く。
術式図、管理記録、適合試験の一覧。
「これが証拠です」
学術評議会の老人が、震える手で紙を取った。
その顔色だけで十分だった。
証言は届いた。
言い逃れではなく、当事者の言葉として。
王国の偽りの勇者譚に対して、ようやくこちらも“生きた証言”を叩きつけたのだ。




