第63話 偽りの勇者譚
王国の反撃は、予想通り正面から来た。
ただし剣でも兵でもなく、“物語”として。
「……うわ、最悪」
玲奈が冊子を読んで顔をしかめる。
アストラにまで流れてきた王国発行の広報冊子には、こう書かれていた。
異世界より召喚された四人の勇者候補。
王国に救われ、災厄と戦う英雄たち。
その中でただ一人、恩義を忘れて裏切った危険な異端者――相沢恒一。
「俺だけ悪役かよ」
「ええ。しかもかなり丁寧に」
美咲さんが苦い顔をする。
冊子には俺のことが、“勇者候補に嫉妬し、禁術へ手を染め、聖女候補二名を脅迫して連れ去った人物”として描かれていた。
さらに、大雅は王国を守る剣聖、神崎は知略の賢王参謀として持ち上げられている。
「完全に勇者譚だな」
俺が吐き捨てるように言う。
「しかも偽物の」
王国は理解しているのだ。
証拠だけでは人は動かない。
分かりやすい物語の方が広まりやすい。
「召喚された勇者たちが国を救う」
フィリアが淡々と読む。
「確かに、一般受けはいいわね。事実かどうかは別として」
サニアは鼻で笑った。
「商売でも同じさ。真実より、分かりやすい看板の方が売れる」
腹が立つ。
でも、それだけじゃない。
この冊子は、美咲さんと玲奈まで“王国に囚われた被害者”として描いていた。
「ほんと、勝手ですね」
玲奈の声が低い。
「自分たちで囲って使ってたくせに」
「……でも、だから逆に使えるかもしれない」
美咲さんが静かに言う。
「どういうことですか」
「王国はまだ、“私たちは王国側の人間だ”って建前を捨てていない。ならその建前を壊せば、向こうの物語は崩れる」
つまり、本人の口から否定する。
それが一番効く。
俺は少し考え、頷いた。
「証言の場を作るか」
「ええ」
美咲さんが答える。
「王国が作った偽りの勇者譚を、当事者の言葉で否定する」
玲奈も強く頷く。
「やります。今度は逃げません」
王国が物語を使うなら、こっちも真実の言葉を使うしかない。
勇者譚なんて綺麗な話じゃない。
召喚は拉致で、職業は管理で、俺たちはただの駒だった。
それを暴く時が来ていた。




